記者コラム<風向計>
ラーメンの「ばり硬(かた)」、気温が30度を超えて「ばり暑」。「非常に」「とても」の意味で使う「ばり」は福岡の生活に定着しているようだ。けれど、テレビで「『ばり』は博多弁だ」との発言を聞くたび、強い違和感を覚える。生まれて40年程度の言葉は、方言じゃなかろうもん!
福岡に「ばり」が登場した頃のことはよく覚えている。中学生だった1980年前後、いきなりクラスのみんなが「ばりばり」言い始めた。聞いたことも使ったこともない言葉に最初は戸惑ったが、若者の間ですぐに浸透した。「ここから一番遠い島は?」「バリ島(遠)」といったクイズもあった。ただ使用範囲は当初、福岡市周辺に限られていたようだ。梅光女学院大文学部教授だった岡野信子さんが84年、北九州市域で実施した「中学生ことばの調査」では、使用例はなかった(「福岡県ことば風土記」)。
「語源」も当時から諸説あった。今も有力で、個人的にもふに落ちるのは英語の「very」。ある生徒がベリーをバリーと読み間違えて広まったという話は聞いた。
九州以外から伝わってきたと言う人もいた。インターネット上では漫画「バリバリ伝説」だという説もあるが、連載開始が83年だから福岡の方が先。地元ラジオ局のアナウンサーが言い出して自分の番組ではやらせた、という説もあった。このアナに尋ねたことがある。「作ってはいないけれど、新しい言葉としてよく使いました」。若者の人気番組だったので、電波が届く範囲に広がったのだろう。
そんな歴史の浅い言葉を「よか」「ばってん」などと同じ博多弁と呼んでいいのか。福岡の方言に詳しい筑紫女学園大の中村萬里(まさと)教授に聞くと「方言ではありません。あえて言えば新方言でしょう」。新方言は文字通り、主に若者が特定の地域で新しく使う言葉だという。「使っている人に地域差があるのが方言ですが、『よか』『ばってん』のようにすべての世代が使うわけではありません」
40年前「ばり、て何ね?」と、ある種の反発もにじませつつ不思議そうに尋ねたベテランの先生や親の姿を思い出す。この世代は今も使わないし、若い人のはやり言葉にすぎないと思っているだろう。
言葉は時とともに移ろい、姿を変える。広辞苑の最新版には方言だった「がっつり」などの新語が収録された。「ばり」も将来、博多弁として認められ広辞苑に載るのかもしれない。その時は方言か否かの思索や、生涯使わなかった人の存在は忘れられているだろう。少し切ない。 (編集委員)
西日本新聞社
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