「あ、停電だ」
石川県珠洲市正院町で48年ほど続く「かつら寿司(ずし)」。店主の谷内(やち)穣(みのる)さんが調理していると、突然店内が暗くなった。妻の幸(みゆき)さんが外に出て確認すると電線の工事による停電だった。
「半日停電するって」
「えー!」
2022年と23年にも大きな揺れを経験し、能登半島地震で直近で3度目となる被災を乗り越えて営業再開を目指している矢先だった。
店では電気で井戸水をくみ上げるため、水も出なくなってしまった。「停電する前に一言言って欲しい………」と穣さんはつぶやく。
町はまだインフラが整わない。市外に避難している人も多く、来客の見込みが立たないため通常の営業は再開できていない。
前回までの地震では壁や屋根が壊れた。昨年12月に1カ月かけて耐震工事を終えたため、今回の地震で大きな被害はなかった。それでも床の亀裂は広がり、隣の家屋が倒れて店舗の一部が破損した。補助金が出るとはいえ、修繕には毎回数百万円の持ち出しがあり、負担は軽くない。
苦しい状況だが、新しく始めたこともある。近所のスーパーでの弁当販売だ。蛸島漁港で水揚げされたブリやイワシを漁師から直接買い、巻きずしやちらしずしなどの弁当を1日60個ほど販売している。「やらないと店が死んでしまうと思った。これが日常化すれば普段の営業につながるのかな」
この町を離れている人が戻ってくるのか不安を感じている。「みんな生活に余裕がない中で、すしという選択肢を選んでもらえるだろうか」。それでも、できることからやるしかない。
「多様な種類の魚が取れるのが能登の海の魅力。お店は残っているし、生まれ育った場所ですから。やらないと」(西岡臣)
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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