聞き手 編集委員・塩倉裕
どんなにルール違反や不祥事で批判されようとも、次の選挙で当選さえすれば「みそぎ選挙」になるのだ――。そんな議論が日本の政界で幅を利かせているのは、なぜでしょう。そもそも、選挙で勝つことで「終わったこと」にできるという理屈は筋が通っているのでしょうか。政治思想史に詳しい政治学者の犬塚元さんは「みそぎ選挙という言葉は55年体制の負の遺産だ」と意外な指摘をしています。どういうことなのでしょう。
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いつから広まった「みそぎ選挙」
――「みそぎ選挙」という言葉が、有力政治家によって都合良く使われていると感じます。
「調べてみたところ、みそぎ選挙という言葉は、それほど古いものではないようです。朝日新聞の記事データベースで調べると、『総理の犯罪』として知られるロッキード事件が発覚(1976年)した際に、政治家が『みそぎ』という言葉を語り出していました。世論の厳しい批判を受けた自民党政権の中にあって、自分自身に有利な政局を作り出すことを狙った大平正芳蔵相が、主要閣僚と党幹部の退陣を主張したときです。退陣することによってみそぎを、との理屈でした」
「続いて、さまざまな疑惑を持たれた国会議員たちが、選挙による『みそぎ』を主張する時代に入ります。最終的に『みそぎ選挙』という言葉が広まったのは、戦後最大の贈収賄事件である『リクルート事件』(88年発覚)のあとでした」
「つまり、みそぎ選挙という言葉は、1955年体制の末期に制度疲労として汚職や腐敗が噴き出した際に登場した、55年体制の負の遺産なのです。地元選挙区での当選がほぼ確実であることを利用して大型の政治スキャンダルへの批判を無効化するために持ち出された、便利な言い逃れ、免罪のツールだったと言えます。逆に言えば、みそぎ選挙という言葉が語られるのは、そこに深刻なスキャンダルや失策があることの表れです」
政治家による「言い逃れ」のツール
――みそぎという言葉には宗…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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