「もう百科事典はつくれない」 元編集者が考えるネット社会の未来

 ネット社会は膨大な情報であふれています。技術が発達し、情報収集が便利で手軽になった半面、デマやフェイク情報の問題も深刻です。「信頼できる情報」を作り出すとは、どういうことなのでしょうか。百科事典の出版で知られる平凡社で、事典編集に長年携わった斎藤文雄さん(77)に聞きました。

「つくるのにお金がかかりすぎる」

 ――膨大な情報が増え続ける時代です。いま百科事典を新しくつくろうと思ったら、大変ですね。

 もう、百科事典はつくれませんよ。

 ――どうしてですか。

 まず、つくるのにお金がかかりすぎます。そして、それが売れないわけですから。

 ――「百科事典の平凡社」と言われた由緒ある出版社でも?

 平凡社の「世界大百科事典」は日本最大級の百科事典です。戦後を代表する知識人である加藤周一氏を編集長に迎えました。しかし、20年ぶりに全面的にデジタル編集をした最新版が出たのは2007年。それが最後です。今は、百科事典の編集部すらありません。

 世界大百科事典の項目数は約9万に上り、筆者は7千人にもなります。何と言っても信頼性が大事ですから、筆者はいずれも各界の第一人者や学界の新進気鋭の学者らを選びます。原稿料だけでも膨大です。

 こうした先行投資を売り上げで回収するわけですが、出版物で回収するのは今や不可能です。電子版もあるとはいえ、ネット展開でそこまで稼げない。最大手の出版社でも、紙の百科事典はもう出せないと思います。

並んだ百科事典が「ステータス」だった

 ――隔世の感があります。

 百科事典が売れてビジネスモデルとして成立していた高度経済成長期が、むしろ例外的だったと言った方がよいかもしれません。

 居間にズラリと並ぶ百科事典…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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