料理人・日高良実さん、63歳。自身のレストラン名でもある「アクアパッツァ」を日本に広めた「イタリアンの巨匠」にして、二つの店で28人を雇う経営者は、コロナ禍を生き抜くためにユーチューバーになった。「わらをもつかむ思いで飛び込んだら、世界の見え方が変わっていった」。挑戦の200日、その舞台裏を聞いた。
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無意識にバカにしていた動画、コメントに驚き
――YouTube「日高良実のACQUAPAZZA(アクアパッツァ)チャンネル」は、開設から4カ月で登録数10万を超えました。ペスカトーレやペペロンチーノといった日本で人気の料理から、しみじみしたイタリアの地方料理まで紹介されています。
新型コロナの打撃で、店も会社も潰すことになるのかと追い込まれた今年の春、何かやらなくてはと頼ったのがユーチューブというのが、正直なところです。
世の中に自分をさらけ出すなんて考えもしませんでしたが、「コロナのおかげ」と言えるくらい、新しい世界に立つことができた。ビジネスとして真剣に取り組んでいます。
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――きっかけは?
料理の人気ユーチューバー「Chef Ropia(シェフ・ロピア)」さん=長野のイタリア料理店「フローリア」のシェフ小林諭史(あきふみ)さん(40)=からの出演依頼です。予約客のキャンセルが日に日に増えていた3月で、軽い気持ちで引き受けました。
動画に対する興味の一方で、無意識にバカにしていた面もあったと思います。最初の動画を後から見返すと、ちょっと傲慢(ごうまん)な態度をとっているんです。
店のキッチンで看板メニューの「アクアパッツァ」を作ったのですが、ぐんぐん伸びる再生回数と書き込まれるコメントにびっくり。喜んで見てくれているのがわかるし、説明が面倒で材料のチダイを、ついマダイだと言ってしまった場面には、次々と正解を挙げた指摘がきました。こんなに料理が好きなのか、ここまで細かく見てくれているのかと。
自分から訂正したのですが、距離の近さを実感して、急激に意識が変わりました。
巨匠が陥っていた試練
――1990年に「アクアパッツァ」をオープンしてから、今年で30年。店名にした南イタリアの漁師料理は、日本では学校給食のメニューになるなど、本国より有名だと言われます。
実はここ数年、僕自身はいい人生を送っていませんでした。
2年前、東京・広尾にあった店を現在の港区南青山に移転したのは、キッチンでの油の不始末からぼやを出し、退去を余儀なくされたからです。地方出張中の出来事でした。
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人の被害はなかったものの、店は天井まで壊れて地下にも水漏れ。傾く店に当時の従業員たちが転職先を探し始めたのもわかって、経営者の孤独を味わいました。
原状回復に1億2千万円です。毎晩アルコールと睡眠薬なしにいられない時期を乗り越えられたのは、妻が見守ってくれていたおかげです。
そんな移転の再出発から2年、ようやく落ち着いて、これから、という時にコロナが来たわけです。
コロナ禍で人員削減でなく増員募集をした理由とは。記事の後半では、コロナ禍を前向きな変化につなげようとする様々なチャレンジについて語ります。
――4月1日から1カ月半、店は営業自粛をしたのですね。
表通りから奥まった商業施設の…
2種類
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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