ひとりで子どもを育てるシングルマザーが直面する困難の一つが、住まいだ。お金がない。大家の許可が下りない――。そんな悩みの解決に取り組む不動産会社が、愛媛県松山市の杉住宅だ。シングルマザー専用のプラン「ままんション」を昨年6月から始め、これまで約50部屋を貸してきた。考案したのは、社長の中川あゆみさん(51)。原点はシングルマザーだった自身の経験にあった。
――トラックや引っ越しスタッフの費用は無料。冷蔵庫や洗濯機といった家電3点をプレゼントするなど「ままんション」には様々な特典がありますね
利用する方の中には、DV(家庭内暴力)から逃げるため、子どもと身一つで家から出てくる人がいます。そんな母親と子どもが生活の再スタートを切るために、いますぐ必要なものは何かを考えました。
みすぼらしい部屋ではなくて、困っているお母さんを応援するお部屋を用意したい。家電だけでなく、ダイニングテーブルのセットや、色の選べるカーテンもプレゼントします。入居後ではなく、あらかじめ部屋にセットします。
――切迫した状況で相談する方もいるのでは。相談から、どれぐらいの期間で引っ越せるのですか
お客さまには「あさってには入居できます」と説明しています。ままんションは、杉住宅が所有する約2200の自社物件で使えるプランです。ですから、大家さんを介さずに、入居者の審査は自分たちでできる。審査だけなら、早ければ30分で終わります。
――自社物件を使うのが大事なんですね
大家さんによっては、母子家庭というだけで審査を断る方もいます。シングルマザーは非正規の仕事に就いていることが多く、家賃の支払いが滞ってしまうのでは、と不安に思うからでしょう。
うちも商売なので、貸して損をしないように計算はしています。トラブル対応の経験豊富なスタッフがいますし、自社物件を使っているので、不動産会社に広告料を払う必要がない。その分を、入居者のメリットとして還元しています。
――ままんションを始めた理由の一つは、シングルマザーだった自身の経験だそうですね
離婚を決めたのは、長女が幼稚園の年中のころ。リフォーム会社を立ち上げた後も、苦しかった。「出戻りと言われないか」「私の何が悪かったのか」と3カ月悩んだ末、「私がこの子を守る」と決心がついて、正式に離婚しました。
幸いにして実家が不動産会社だったので、私は住まいには困らなかった。衣食住のどれか一つが欠けても、新たなスタートは切れなかった。
杉住宅の社長になってから、自分の仕事を通じてシングルマザーを応援できないかと専用のプランを考えました。「母子家庭」という響きがなんか重くて、「ままんション」という名前を付けました。
――プランを始めた手応えは、いかがですか
契約は1カ月に2~3件のペースで、思ったより多い。1年が経つと、退去する人もいる。退去理由の報告で「結婚する」と聞くと良かったなと思うし、「大丈夫かな?」と今も気にかかる方もいる。
でも、何かしら人生が動いたことは間違いない。家を提供する者として、「ままんション」を通じて社会的使命を果たせたらと思います。(照井琢見)
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なかがわ・あゆみ 松山市生まれ。2001年にリフォーム会社「杉ビルリフレ」を設立。父が創業した「杉住宅」には16年に入社し、19年7月に社長に就任した。「ままんション」の問い合わせは電話(089・947・0343)、ホームページ(http://mamansion.client.jp/)。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル