千葉県君津市笹の清水渓流広場にある人気観光スポット「濃溝(のうみぞ)の滝」。実は「亀岩の洞窟」が本来の名称で、濃溝の滝は別にある。7年前、SNSの写真が火付け役になって超人気スポットになったが、そのSNS投稿が名称を混同したのが原因だ。当時は二つの名を併記することで落ち着いたが、地元では「正式な名称にしてほしい」との声が再び持ち上がっている。
洞窟は江戸時代初期、水田に川の水を引き込むために掘られた。高さ10メートルほどで、こけと緑に覆われた洞窟を清流が流れ落ちる風景は「スタジオジブリの世界」とも言われている。
地元では2002年、洞窟の中に亀に似た岩があることから亀岩の洞窟と名付けて景勝地にしようとPRを始めたが、注目されることはなかった。
ところが、15年の秋のこと。春と秋の朝に洞窟に差し込む日の光が横向きのハート形になる場面を、写真家がインスタグラムにアップした。これが話題を呼んで観光客が集まり始め、休日になると観光バスが1日200台以上も押し寄せるようになった。インスタの投稿が洞窟を「濃溝の滝」と表記したため、テレビの旅行番組や雑誌も濃溝の滝として紹介するようになった。
ただ、本来の濃溝の滝は洞窟の下流約110メートルにある。かつては農作業用の水車小屋があり、水車に水を引き込む溝があったことから「農溝の滝」と呼ばれ、いつしか「農」にさんずいがついたという。「洞窟を濃溝の滝と呼んだら、この滝は何と呼ぶのか」との声もある。
地元の住民は市に「名称が違う」と訴えたが、既に洞窟は濃溝の滝としてブームになっていたため、市が案内看板などで「濃溝の滝・亀岩の洞窟」と併記する形でいったん決着した。しかし、亀岩の洞窟の名は浸透することはなかった。
一時の爆発的なブームも去り、住民は市に「亀岩の洞窟に統一してほしい」と再び要望。昔の濃溝の滝の絵を描き、その絵と共に、洞窟の名称が違っているとする説明文を観光客に配ったり、洞窟近くの出店に説明文を張ったりして、亀岩の洞窟への変更を図る。
市の担当者は、どちらの名称も地元住民の呼び名であることから「合意形成は必要だが、正式な地名として文献などに掲載されているわけではないし……」と静観の構えだ。
本来の濃溝の滝は崖下にあり、洞窟の見える場所からはほとんど見えない。このため、洞窟内のだんだんになった岩場を濃溝の滝と勘違いする観光客も多い。周辺に二つの名称を書いた看板やのぼりがあるのも混乱に拍車をかけている。
「亀岩の洞窟を守る会」副会長の本吉和彦さんは「これまではインスタ映えで人気が出たが、縁起のいい亀に似た岩はパワースポット。亀岩の洞窟の名称で新たな観光客を掘り起こせるのでは」と、本来の名称でのPRを求めている。(堤恭太)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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