国会を舞台に、全く背景の違う1年生議員の男女を描いた青年誌「ビッグコミックスピリッツ」に連載中の西炯子(けいこ)さんの漫画「恋と国会」のコミックス1巻(小学館、650円)が話題となっている。作品のために取材を重ねた西さんが「現実が漫画を超えてしまう。だからこそ、漫画で描くのが面白い」と考えているという国家の中心。これを読んで“予習”しておけば、20日に召集される通常国会をこれまで以上に興味深く見られる…かもしれない。(高柳 哲人)
父の地盤を引き継ぎ、世襲議員として政治の酸いも甘いも知る海藤福太郎と、なぜか当選した元地下アイドルの山田一斗。「恋と国会」は、与党に所属する全く正反対の新人議員が繰り広げる前代未聞の国会ラブコメ(!?)という斬新な設定だ。西さんが最初に構想を思い付いたのは、2年ほど前のことだったという。
「『女の子が総理大臣になる』という話を今まで読んだことがなかったので、やってみたいなと思いました。これまで作品を発表していた『フラワーズ』(小学館の女性向け漫画誌)でやったら面白いかな、と考えたのですが、『政治漫画は、女の子が敬遠する』と言われた。そんな時に、スピリッツから声を掛けていただいたんです」
映画化もされた代表作「娚(おとこ)の一生」を始め、女性向け漫画のヒット作を数々生み出してきた西さんだが、青年誌の経験は少なく「40歳以降の男性が読むという意味では、連載は初めて」。そんな時、知り合いの編集者からヒントをもらった。
「『青年誌の読者は知識を得ることに価値を感じる。そういう要素があった方が満足度が高いはず』と聞いて、少女漫画とは方法論が違うことを知りました。それで『恋愛が主で、政治が味付け』と考えていたのを『政治をまずしっかりと描いて、恋愛が後から付いてくる』という形に。女性向けとは、作品の中の“恋の比率”が違うんだなと」
政治をしっかりと書き込むためには、綿密な取材が必要だ。作品のため、西さんは現職の議員や元秘書、ジャーナリストなど約30人に話を聞いている。
「今までの作品の中で、最も多くの人に取材をしていると思います。取材がなければ、一話だって描けない(笑い)。しかも、描いた後に確認をしてもらうと『この部分はやっぱりおかしい』と、内容がひっくり返ってしまい、最初から…ということもあるんです」
ただ、同時に「リアル」を求め過ぎないようにも気を付けているという。
「現実を考慮し過ぎると、何もできなくなってしまう。例えば、一斗は東京1区(千代田区、港区の一部、新宿区の一部)の選出という設定です。1区は都道府県庁の所在地で、彼女のようなタイプの議員が当選するのは現実には考えにくい。だから最初は別の選挙区ということも考えました。でも、地下アイドルをやっていた一斗は、(秋葉原のある)東京1区から出馬するという必要があったんです」
西さんが描きたいのは学習漫画ではなく、あくまでもエンターテインメント作品。だからこそ、「この漫画を読むことで、政治の内幕を知ってほしい」という気持ちも、持ってはいない。
「そう思って描くと、こちら側の気持ちが読者に透けてしまい、説教くさく感じてしまうんですね。私はまず、面白がって読んでほしい。各話には政治に関する豆知識や解説のようなものも入れていますが、読みたい人だけ読んでくれればいいんです。たとえ読み飛ばしたとしても、作品としては面白いと思ってもらえるはず。そこは気を付けて描いていますね」
リアルとフィクションの絶妙なバランス。西さんはその力加減を考えながら描いてきたが、最近は想像とは違う形で、それが崩れそうになっているという。
「『漫画だから』と誇張して、面白おかしく表現したつもりだったのに、実際の政治がそれに追い付いてきて、更に追い越されてしまうことも。そもそも、『アイドルが議員になる』というのも実現してしまいましたからね」
確かに、本作の連載が始まった後の19年4月に行われた渋谷区議選で、アイドルグループ「仮面女子」の元メンバーの橋本ゆき氏(27、芸名は桜雪)が当選。「アイドル区議」が誕生した。「漫画のような政治」というのは必ずしも歓迎できるものではないが、「事実は漫画よりも奇なり」ということなのだろう。
今回の第1巻には全部で11話が収録されているが、まだタイトルにある「恋」を感じさせる要素は少ない。「誰と誰がくっつくの?」とやきもきしている読者も多いかもしれない。
「内容的にはまだ、各キャラクターの人物紹介の段階ですね。一斗が立候補した背景もほぼ明かされていませんが、構想は私の中にしっかりあります。1巻を出して『読み物として信頼されたかな』という手応えはありますので、今後は恋も含めて徐々に話を進めていきたいと思います。楽しみにしていてください」
◆西 炯子(にし・けいこ)12月26日、鹿児島県指宿市生まれ。都留文科大在学中から漫画の投稿を始める。大学卒業後は小中学校の国語講師をしながら作品を発表していたが、後に専業の漫画家に。2008年から女性向け漫画誌「月刊フラワーズ」で連載された代表作「娚の一生」は、15年に廣木隆一監督で映画化された。現在は、「恋と国会」のほかに「初恋の世界」(月刊フラワーズ)、「たーたん」(ビッグコミックオリジナル)を連載中。趣味は手芸・ドライブ。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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