昨年秋、46歳にして初タイトル獲得という偉業をなしとげた将棋棋士の木村一基さん。若手の台頭に、打ち寄せるAI化の波――。厳しい勝負の世界で奮闘を続けるその姿は、将棋を知らなかった多くの人々に、勇気を与えています。将棋をめぐる現状について。弟子や後輩たちについて。そして、もし将棋以外に職業を選んでいたら……。ロングインタビューでたっぷりとうかがいました。
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新しいものを拒まない
趣味のランニングをしている時の撮影をお願いすると、真新しいピンクの厚底シューズを履いて現れた。
「正月に箱根駅伝で見て、衝動買いしました。弾むような感触です」
週に2回、多い時は4回。自宅近くの荒川沿いなどで、6~7キロを40~50分で走る。体重は、中学3年の頃からほとんど変わらない。
「いつか、フルマラソンに出てみたいですね」
棋士として歩んできた道のりは、平坦(へいたん)ではなかった。将棋界に八つあるタイトル戦で初めて挑戦者になったのは32歳の時。4連敗で敗退した。2009年の王位戦では、3連勝後に4連敗を喫する屈辱を味わった。40代半ばになり、大舞台から遠のいていた。
昨年9月、重い扉を開ける時がついに訪れる。当時、二つのタイトルを手にしていた豊島将之名人・竜王(29)に挑戦した王位戦。3勝3敗で迎えた第7局を制し、王位のタイトルを手にした。46歳3カ月での初タイトル獲得は、有吉道夫九段(84)の37歳6カ月を更新する快挙。7回目のタイトル戦での初獲得も新記録だった。
「よく4回も勝ったなと。なぜ取れたのか、いまだにわかりません」
対局を振り返る際にはユーモアを交えてぼやき、タイトル戦などの解説では漫談のような語り口で笑いを誘う。アマチュアへの普及活動も熱心で、約160人いる現役プロの中でも5本の指に入る人気棋士だ。昨年12月に開かれた王位獲得の祝賀会には、棋士やファンら約500人が詰めかけた。
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高校生棋士の藤井聡太七段(17)が台頭し、20代の棋士が相次いでタイトル保持者になるなど、将棋界は世代交代が進みつつある。そんな状況下での活躍とあって、しばしば「中年の星」と称される。「照れくさいです。自分がその対象でいいのかな」
対局中に疲れを感じ、加齢を自覚することもある。それでも、序盤作戦の研究や他の棋士との鍛錬は怠らない。名人3連覇の実績を持つ佐藤天彦九段(32)は、VS(ブイエス=1対1の練習対局)を15年ほど続けている間柄だ。
「これほど情熱を持ち、努力を続ける姿勢はなかなかまねできない。VSの時でもスパーリングではなく、常に『勝負』という迫力を感じる」
3年ほど前、人工知能(AI)を搭載したソフトを研究に採り入れた。行き詰まりを感じた時にヒントをくれる、良き相棒だ。
「そんな手があったのかと、いつも気づかされる。面白いですよ」
4月で、プロ入りから23年になる。意欲と向上心は、今も若手に負けていない。
木村さんにロングインタビュー
――初タイトルに、どんな反響がありましたか。
喜んでくださる方が多かったです。昨年12月の祝賀会にも、存じ上げない方がたくさん来てくれました。
――木村さんの解説を見て、将棋に興味を持った人が増えたということですか。
藤井聡太七段とか羽生善治九段の国民栄誉賞とか、明るい話題がある中で興味を持たれた方が多いのかなと思います。王位戦の前夜祭でも「ユーチューブで見ました」という人が複数いたので、印象に残っています。
――タイトル獲得後、取材も多かったですか。
雑誌やラジオのほか、企業の広報誌の取材も受けました。「元気のある中年」ということでの取材がよくありましたね。
――「中年の星」と呼ばれています。
照れくささもありますし、自分…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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