「メンタリスト」のDaiGo氏が、自身のYouTubeチャンネルで、「ホームレスの命はどうでもいい」などと、ホームレスの人や生活保護利用者に対する差別発言をし、インターネット上で「許されない」と批判の声があがっている。
発言があったのは、8月7日公開の動画。視聴者からの質問に同氏が答える形式の配信のなかだった。
同氏は「生活保護の人たちに食わせる金があるんだったら猫を救って欲しいと僕は思う」「生活保護の人生きてても僕は別に得しないけど、猫は生きてれば得なんで」などと発言。自分に必要のない命は「軽い」として、「ホームレスの命はどうでもいい」「言っちゃ悪いけど、いないほうがよくない?」「じゃまだしさ、プラスになんないしさ、くさいしさ、治安悪くなるしさ」などといった発言を繰り返した。
同氏のチャンネル登録者数は約246万人おり、この動画はすでに20万回以上再生されている。自己啓発的な内容の著書が多数あり、メディアにも出演している。若い世代を中心として影響力は大きい。
一連の発言に対し、Twitterなどでは、生産性の有無で命を選別する優生思想に結びつくもの、生活保護利用者やホームレスに対する偏見や攻撃をあおるもの、などと批判が相次ぎ「炎上」。DaiGo氏の名前などの関連用語がトレンドに入った。
こうした懸念は杞憂(きゆう)とは言えない。昨年11月には、東京都渋谷区のバス停で、路上生活をしていた60代の女性が頭を殴られ、死亡する事件が起きている。逮捕された近所の男性は「痛い思いをさせればいなくなると思った」と供述していたとされる。
DaiGo氏は12日深夜からの同チャンネルの配信で「炎上」について、「自分の家族とホームレスとどっちかしか救えないってなったら自分の家族を救うじゃないですか。命は平等って言うけど優劣はある」など自説を述べ、「個人的に思うことを言っただけで、謝罪すべきことではないと思う」と語った。
しかし同氏は13日午後になって、公式ツイッターで同日夜からのライブ配信を告知。YouTubeチャンネルには【間違ったことを言ったので謝罪します】とのタイトルが予告されており、この問題について謝罪することを示唆している。
朝日新聞は同氏の公式ウェブサイトを通じて質問を送っているが、13日夕の時点では回答はない。
発言の悪影響に強い懸念
一連の発言については、生活保護を利用する人や、ホームレスや生活困窮者の支援関係者を中心に、懸念と批判が広がっている。
「人が勝ち組と負け組に分かれるのが現実だとしても、(生活保護利用者やホームレスの人が)『命が軽い』とまで言われるのは非常に不愉快だし、間違っている」。東京都内に住む生活保護利用者の男性(41)は憤る。
昨春、コロナ禍で雇い止めに遭い、社員寮を追われた。自分が生活保護を利用することになるとは想像しておらず、生活保護は誰しも人ごとではないと実感している。「影響力がある人の発信だけに、『生活保護の人は死んでいい』と思い込む若い人がいるのではないか」。男性は不安を感じている。
東京都内でホームレスの人ら生活困窮者への炊き出しや生活相談を続けているNPO法人TENOHASIの清野賢司事務局長は、学生ら若者による襲撃事件が生じやすい夏休みという時期であることを指摘する。「YouTubeという若者に影響力がある媒体で蔑視や憎悪をあおる発言をすることは、ストレスがたまった若者が、それをホームレス状態の人に向ける引き金になりかねない。それは未来ある若者にとっても不幸なことだ。(DaiGo氏には)その危険性を認識してほしい」と語気を強めた。
TENOHASIの炊き出しで医療支援にあたる「世界の医療団」の武石晶子さんも、何万人ものDaiGo氏のファンが発言を耳にした悪影響を懸念する。「路上で暮らす人に対して攻撃的な言動や行動に出る人が現れることを危惧しています」
世界の医療団はコロナ禍のなかで、ホームレス状態にある人への新型コロナウイルスワクチン接種支援に取り組んでいる。武石さんは「彼の発言の真意は理解できない。生活保護の申請や困っている方が支援を求めづらくなってしまうことなど決してあってはならない」と話す。
生活に困窮している人などを支援しているNPO法人「ほっとプラス」理事の藤田孝典さんは「今回の発言を真に受けて、ヘイトクライムが実際に起きてしまわないか心配」と話す。
DaiGo氏のYouTubeのチャンネル登録者数は多く、著書も多数あり、「影響力の大きい人の一人」(藤田さん)。「ホームレス状態の人の中には実際に危害を受けている人も多い。動画を見て、具体的な行動に移す人が出るかもしれない」と懸念する。また、生活保護を利用している人から「危害を受けないか心配」との相談も寄せられ始めているという。
藤田さんは自身のツイッターなどを通して、DaiGo氏に動画の削除や発言の撤回を求めている。「動画についているコメントなどをみても多くの人は発言を批判しているが、賛同する声も一部である」と藤田さん。「視聴者に対して暴力や殺傷行為は絶対に起こさないよう、撤回して欲しい」
生活保護制度に詳しい小久保哲郎弁護士(大阪弁護士会)は「他人が生きていること自体を否定する極論の垂れ流しだ。猫は大事にしていいが、ほかの人は死んでもいいという発言は理解できない」と強く批判する。
さらに「テレビに出ていて、発言力がある人が、みんなが見るところで、偏見を助長する発信をした。これが社会的に許容されれば、より一層、コロナ禍で困窮して、支援を必要とする人が生活保護の申請をためらうことにつながる。『これは許さない』という姿勢を社会が示さないといけない」と強調する。
小久保氏は発言の背景の一つに、2012年以降の生活保護バッシングの後遺症も指摘する。「政治家も加担したバッシングの結果、世の中に広く、生活保護を利用する人への差別的な価値観が刷り込まれてしまっている」
チャット相談を実施しているNPO法人「あなたのいばしょ」の理事長で、慶応大4年の大空幸星(こうき)さん(22)は、DaiGo氏の発信に対して、自身のツイッターで「その考えや発言が自分や自分の大切な人の命を奪うことになるかもしれない。命はね重いんだよ。向き合って欲しい」と投稿した。
あなたのいばしょには、1日に約700件の相談が寄せられている。生活保護の利用を検討している人や、利用したくても周囲から止められていてどうしたらいいかといった相談もある。「生活保護になるくらいなら死んだ方がましだ」という声もあり、スティグマ(偏見)は根強い。ネットカフェから、「家賃や携帯料金も払えない」という相談も届く。
大空さんは、「今回の発信は、生活保護を利用している人や、その手前の人にとっては耐えられない。社会は支え合いで成り立ち、みんながインフラを使いながら生きている。『こうなったのは自分のせいだ』と追い詰め、生活保護の利用をためらう人がいるかもしれない」と危機感を話す。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル