地方季評 田中輝美
「ボーダーツーリズム」と聞いて、どんな旅を想像するだろうか。国境をはさむ「境界地域」をまたぎ、国内と海外を一度に訪れる旅のことだ。
海外の大陸では定着しており、日本でも2017年、産官学でつくる「ボーダーツーリズム推進協議会(JBTA)」が立ち上がった。観光関連の民間事業者と地方自治体、研究機関が情報共有やツアーの企画をしている。
はじまりは2013年、官民が連携して長崎県の対馬と韓国・釜山間で行われたモニターツアーだ。対馬は釜山まで船で約1時間、49・5キロメートルの近い距離にある。新型コロナウイルス感染症の拡大前は韓国からの観光客が年間20万人も来訪し、国際ターミナルやホテルのほか、対馬の歴史文化を発信する施設もオープンした。
韓国を中心に「国境の島」として知られていた一方で、日本人観光客がほとんど増えないことへの問題意識がツアーの背景にあった。この後、ボーダーツーリズムは北海道稚内市とサハリン、沖縄県八重山地方と台湾、長崎県五島と韓国・済州島などで行われ、広がっていった。
ボーダーツーリズムに私が関心と期待を寄せる理由が大きく二つある。
一つは、境界が観光資源にな…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル