新型コロナウイルスの影響が外国人留学生を直撃している。在留資格で許されたアルバイトが営業自粛や人減らしでなくなり、学費や家賃が払えない――。共同生活を送る留学生たちを訪ねると、その困窮ぶりがかいま見えた。
大阪府南部の一軒家。府内の私立大学に通うバングラデシュ人の留学生8人がシェアハウスをしながら生活を送っている。
4月下旬の夕方、電灯もついていない薄暗い共同の台所で学生3人が取材に応じた。
「コロナで困ったこと、いっぱいあります」
ラキブルさん(22)が切り出した。自動車など「モノづくり」に強い日本に憧れて来日し、3年目。将来は母国で、給料の高い日系企業に就職したいと願う。
食卓の上に、同じ青色の封筒が数通おかれていた。「全部同じ内容ですよ」。その場で開封して見せてくれた。それぞれの学生への大学からの学費の督促状だ。前期授業料が期限を過ぎても未納だとし、月末までに「至急納付」を求めている。
「アルバイトがコロナでなくなりました。このままじゃ絶対に払えません」
横に座ったライハヌルさん(25)が訴えた。元々、経済的に余裕はなかった。
昨年まではコンビニのバイトで蓄えた貯金と、故郷で魚の養殖業などを営む母親からの送金を足し、年間100万円近い学費を何とか工面してきた。
しかし、冬休みで一時帰国して3月初旬に日本に戻ると、新型コロナの影響でコンビニ客が大きく減り、当面休むよう求められた。故郷でも、母親が住む首都ダッカが都市封鎖に。母親は収入が激減し、息子に送金できなくなった。
共に暮らす他の留学生たちも空港での航空機内の清掃などのバイトが途絶え、故郷の親も頼れないという状況は同じ。8人全員が授業料を入金できていない。
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貯金「あと7千円」
築50年以上の一軒家の家賃は8人で2万円ずつの計16万円だが、その支払いも厳しい。4月分は家主に頼み込み、半額の8万円だけ支払い、残りは猶予してもらった。だがその分、家賃に含まれていた無線LANの契約は切られた。大学のオンライン授業にも使うため、自分たちで通信費用を負担して契約し直した。
日本政府からの10万円の現金給付は国内に住民登録があれば、外国人留学生にも支給される。ラキブルさんも「それは助かる」というが、当面の食費などを考えると、学費を支払うには額が足りない。
食事は、まとめ買いしていたイスラム教徒向けに処理された冷凍肉を炒めて白飯と一緒に食べるが、毎日変わらない。
ライハヌルさんは「貯金はあと7千円」と言い、ため息をついた。
「(食後に)果物とか、ポテチとかクッキーとか食べるのが好きでしたが、それももう買えません」
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「中国で勉強するのと変わらない」
留学生にとって、バイト先は収入源であるだけでなく、「リアルな日本語」を学ぶ機会でもある。
中国福建省出身の留学生、黄鴻偉さん(21)は交換留学で昨年10月に来日した。同時通訳を夢見ながら大阪の私大の日本語コースで学び、回転ずし店で客と接するホールスタッフとして働いてきた。
「スタッフ、お客さんとの会話は授業で学ぶ日本語とはまったく違います」と黄さん。「お客さんから『兄ちゃんの日本語、俺よりうめえなあ』って言われたときはうれしかったですね。自信になった」
3月に入り、感染拡大を心配した中国の両親から「バイトを休んでは」と説得された。月10万円ほどだったバイト代がなくなるのは痛いが、親の仕送りに頼ろうと思えば頼れる。ただ、実践的な日本語学習の機会は戻らない。
最近は巣ごもりする留学生寮で日本語のオンライン授業を受けているが、物足りない。「留学期間はたった1年。寮で勉強しているだけじゃ中国で勉強するのと変わらない」
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情報過疎、どうすれば
外国人留学生は言葉の壁もあり、困っていても「情報過疎」になりがちだ。どうすればよいのか。
外国人を含めた労働者の相談に乗っているNPO法人「POSSE」(東京)の岩橋誠さんは「アルバイト先の事業所にはまず休業補償をする責任があり、それを求めていくべきだ」と指摘する。
休業手当を定めた労働基準法26条は事業所は平均賃金の6割を支払う義務があると規定し、賃金請求権を定めた民法536条に照らせば10割の請求も可能だという。ただ、留学生だけで事業所側と交渉しても無視される可能性もあるとして「共に動いてくれる労働組合や弁護士らに相談をするよう周囲が助言してほしい」と話す。具体的な相談はPOSSE外国人労働サポートセンター(supportcenter@npoposse.jp)へ。
留学生でも利用できそうな公的支援もある。一つは国の「住居確保給付金」。生活苦で住まいを失うおそれがある人らが対象で、国が3カ月、家賃代(自治体ごとに額は異なる)を給付してくれる。住民登録している自治体が窓口になる。
各自治体の社会福祉協議会が窓口の「緊急小口資金」という制度もある。審査をクリアすれば、最大20万円まで無利子で借りることができる。
学習環境などを含めた生活全般の相談は、各都道府県にある国際交流協会などの機関も受け付けている。大阪国際交流センターにある「外国人のための相談窓口」(06・6773・6533)では、英語や中国語など5言語でスタッフが電話やメールで対応し、内容に応じて専門的な支援機関につなげている。(伊藤喜之)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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