「12時34分、いただきまあす!」
1人が号令をかけた。丸刈りの少年10人が、一斉に箸を動かす。
400グラムほどある麦飯、おわんになみなみ注がれた野菜スープ、皿いっぱいのにんにく野菜炒め。
少年たちのそばには法務教官。私語は禁じられている。箸と食器が触れる乾いた音だけが響く。号令で叫んだ時間は、食べ終える目安だという。
奈良少年院の平城山(ならやま)寮(奈良市)。ここでは、いつもの食事風景だ。
ただ、食べている野菜はいつもと違った。自分たちが育て、収穫したもの。
記者(27)は食事に立ち会った。かみしめる少年たちの表情が、少し緩むときがあったように見えた。
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奈良少年院には「マイ畑」という取り組みがある。一部の少年には敷地内の畑を割り当て、野菜を育てさせる。
農作業は週3回。何を育てるか、どんな作業をするか。1冊の教科書を片手に、すべて自分で決める。
強がって薬物に頼ったケンジ、お金ほしさに売る側に回ったリョウタ。野菜作りを通じて自分の過去と向き合っています。そんな少年たちを見守る教官には、無言の食事風景は違った見え方をしています。
寒空の昨年11月、軍手に長靴姿のケンジ(仮名、19)は、ピーマンとカボチャの世話をしていた。
「石灰少なめ、堆肥(たいひ)多めにすると、微生物が集まって成長していくんです」
はにかんだ表情と人なつっこい笑顔。
2022年7月、仕事に行こうと自宅の玄関で身支度をしていた。
突然、警察が来た…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル