石川県穴水町の農家民宿「兜(かぶと)ガーデンファーム」で飼育されているヤギたちが、能登半島地震により長引く避難生活を過ごす住民の癒やしになっている。代表の小栗伸幸さん(69)が避難所にチラシを掲示し呼びかけると、子どもたちがヤギに会いに来るようになった。
小栗さんは60歳で定年退職した後、2016年に横浜市から移住し、翌年には農家民宿をはじめた。ヤギのエサやりや搾乳、ブルーベリーやみかんの収穫などが体験できる宿泊施設で、県内外の小中高生を中心に利用されているという。現在、約5千平方メートルの広場でヤギ7頭を飼育している。
ヤギの飼育は、移住直後に町内の知人から「ヤギ飼わんか?」と勧められたのがきっかけだった。
「1日90分の作業で飼える」と言われ、4頭のヤギを引き取った。だが実際に愛着を持って育ててみると、エサやり、水やり、小屋の掃除に、フンの始末など「90分どころじゃない作業量だった」と、小栗さんは笑う。
今回の地震で、民宿自体に大きな被害は無かったが、断水の被害を受けた。ヤギを飼っている広場や小屋も無事だった。
ファームの向かいには町の指定避難所となっている旧兜小学校がある。県によると、13日時点で約150人が避難しているという。
地震から2日後、小学校を訪れた小栗さんは余震や慣れない生活でストレスを抱える子どもたちの姿を見た。さらに、子どもたちの遊び場がなくて困っている親御さん、体を動かす機会が少なくなったお年寄りも避難所にはたくさんいた。
「ヤギとのふれあいが手助けになれば……」
その日、「散歩のついでにヤギとふれあいしませんか?」と呼びかけた手作りのチラシを小学校の掲示板に貼った。
それからは、毎日のように避難している子どもたちがヤギに会いに来てくれた。「常連」の小学生の女の子は、ヤギ7頭の名前を全て覚えるまで通ってくれた。
ヤギとふれあう子どもたちを見た小栗さんは「最初はおっかなびっくりヤギに近づいていた子どもも、1カ月たてば自分からなでるようになった。大変な避難生活のなか、リラックスする様子を見られてよかった」と話していた。(田辺拓也)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル