昨年10月の台風19号で大規模な浸水被害を受けた川崎市では、被災者らが市を相手に謝罪や損害賠償などを求める集団訴訟の準備を進めている。これまで原告団に加わる意思を示したのは50人近く。関係者は年内の提訴を目指している。(斎藤博美)
「黒い水が玄関からだけでなく、床と壁の間、クローゼットの奥、あらゆるところからあふれてきた。ホラー映画のようでした」
原告団に加わる川田操さん(52)は、台風19号が上陸した昨年10月12日の夜のことを、そう振り返った。
多摩川に近い中原区上丸子山王町の2階建ての自宅は、床上浸水した。それから数日は泥だらけになりながら泥をかき出す作業に追われた。エアコン4台は室外機が水没したので全滅。台所は2階だったが1階の木の家具はすべてゴミになった。1階の壁の中の断熱材は床上50センチほどまで浸水したのですべて取り外すしかなかった。リフォーム代の見積もりは1千万円以上と言われた。
「自然災害だから仕方がない」と思っていた。でも、多摩川につながる排水管のゲートを閉めなかったことが被害拡大につながった可能性があることを知り、昨年11月、市が開いた住民説明会に出席した。市側は、閉めなかったのは操作手順に従ったからという説明に終始し、「まるで他人事」。怒りが増した。
中原区下沼部に住む相澤公子さん(75)も自宅は床上浸水。冷暖房や給湯器などがすべてだめになり、リフォーム代と合わせて約700万円ほどの被害に。原告団に加わることを決めたのは「謝罪や補償もそうだけど、これから災害が巨大化するなか、またこんなことがあったら立ち直れない。市は再発防止に全力をあげてほしい」という思いからだ。
被災住民らで作る「台風19号多摩川水害を考える川崎の会」が、被災者に行ったアンケートによると、10月までに回答した233人のうち201人(86%)が市の対応に憤りを感じていると答えている。
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川崎市によると、台風19号での市内の住宅被害は全壊33件、半壊948件、床上浸水は1258件、床下浸水は411件。罹災(りさい)証明書の発行件数は3411件にのぼる。
市は浸水被害を巡り、原因究明や対策の検討を進める検証委員会を設置、今年4月の最終報告書では、排水管の水門の操作手順を改定、逆流が確認されたときには全閉にするとした。
「このこと自体、昨年の19号での市の操作の過ちを認めたにほかならない」。12日に川崎市内であった原告団への参加を呼びかける集会で、弁護団の西村隆雄弁護士はそう指摘し「人災だ」と断じた。
裁判では川崎市に、①謝罪②損害賠償③再発防止を求めていくことが柱になるという。市はこれまで「浸水被害は、想定以上に多摩川の水位が上昇したことに伴って発生したものであり、市として補償や賠償を行うことは難しい」としている。
同じく弁護団の川岸卓哉弁護士によると、年内の提訴を目指し、100人の原告団を結成したいという。ただ、裁判というハードルを高く感じてためらう人も少なくない。「3本柱の中でも再発防止は被災者だけでなく、すべての市民に関わること。多くの市民に地域の問題として身近に感じてほしい」と話す。
「考える川崎の会」では今後も原告を募り、ある程度の人数が確定したら12月初旬に原告団総会を開く予定。裁判についての相談に応じている。また、被災者でなくても裁判を支援してくれる人を求めている。問い合わせは事務局の船津了さん(044・434・4290)へ。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル