平成から令和へ移り、初の参議院選挙が21日に投開票される。今、一票に何を託すのか。様々な課題の現場を記者たちが訪ねました。
21日は参院選の投開票日。どこに投票したって同じでしょ? 候補者がどんな人か分からない? そんなあなた、まだ間に合います。「18の質問に答えるだけであなたの意見に最も近い政党をマッチング」「自分の選挙区の候補者がたった10秒で分かります」。キャッチーな言葉を盛り込みながら、分かりやすく選挙情報を伝えるウェブサイト「JAPAN CHOICE(ジャパン チョイス)」(https://japanchoice.jp/
2年前の衆院選でオープンし、約30万人が利用した。この参院選で内容をリニューアルし、日々新たな情報を加えるなど、更新を続けている。
運営するのは10~20代の若者ら約35人からなるNPO「Mielka(ミエルカ)」。代表の弁護士、徐東輝(そぉとんふぃ)さん(28)が5年前、京都大大学院生のときに前身の学生団体を設立、司法試験に合格した後も、政治家と学生らとの対話イベントの開催など、後輩や社会人仲間と手弁当で活動を重ねてきた。ジャパンチョイスでは各党の政策比較や与党の公約達成状況、予算の使い道などをデザインやグラフを使って示し、選挙を「見える化」している。
かつて情報は人と会い、書物をひもとき、自らつかみとってくるものだった。けれど今やネット上には、自分好みの本も音楽もニュースも「あなたにはこれ」と履歴から薦めてくれるサービスがあふれている。そんな中育った若い世代が自ら政党や候補者の情報を調べて選挙へ行くのにおっくうになるのは「ある意味、時代の流れ。だから情報を集め整理して、ユーザーに分かりやすく届けることが必要なんです」と徐さんは言う。
「投票することで、自分たちが未来を変える力になる。それがどんなにかっこいいことか」。力を込めてそう話す徐さんには、参政権がない。祖父母の代に韓国から移り住んだ、在日韓国人3世だ。「参政権を持っていないからこそ、持っていることの美しさが分かる。日本と韓国、どちらに帰属するのか、そのはざまにいる自分だから気づくこと、僕にしか伝えられない価値観があるならば、それをちゃんと届けたいんです」
サイトの中立性は保たれているか、比較する政策の選定によって恣意(しい)的な誘導を引き起こしていないか。サイト上の言葉がユーザーを傷つけていないか。細心の注意を払い、メンバーで議論やテストを繰り返す。掲載内容が制限を受けないよう、広告は掲載しない。有権者の知る権利のため、すべてのサービスは無料で公開している。
2016年の米大統領選がきっかけだった。ヒラリー、トランプ両陣営の選挙手法を知り伝えようと、4カ月間で10州26都市を回って目の当たりにしたのは、民主党支持者と共和党支持者の修復しがたい亀裂だった。互いが悪口を言い合い、フェイクニュースが蔓延(まんえん)していた。「ここで見た世界はまもなく日本にやってくるかも」。そのとき有権者のよりどころとして必要なのは、信頼できるデータや知識の共有の場、情報のプラットフォームだと確信した。「今ならまだ、間に合う」。たとえ分断が止められなくても、異なる立場や意見を互いが理解するきっかけをつくりたい。翌年の衆院選にジャパンチョイスを間に合わせた。「コミュニティーの架け橋になりたい、と思っています」
さらに挑戦したいことがある。国会で何が議論されていて、どの法案が可決されたのか、など「国会の可視化」。どの議員が何の委員会に出席しどんな発言をしたのか、という「議員活動の可視化」。そうすることで選挙で一票を投じた政党や政治家が何をしているのか、ユーザーにとっては自らの投票がどう動いているのかをひもづけられる。また、たびたび改正されるさまざまな法律がいつ、どんな趣旨で変わったのかをたどれる「法律のバージョン管理」もウェブ上で共有したい。それらのための資金を募るクラウドファンディングを、6月から試みている。(https://readyfor.jp/projects/japanchoice
「在日がやっている時点で信用できない」「いいことやってます風に言ってる」などSNSで中傷を受けることは少なくない。けれど「好きの反対は嫌いじゃなくて無関心。そう考えると、けっこう好かれてるのかな」と受け流す。
「僕に子どもができたとき、自分の生まれた頃よりも明るい社会で育てたい。『パパのおかげで違う時代になったよ』って言われたら、めっちゃ誇りじゃないですか」。まだ結婚もしていないし、子どももいないんですけどね、と笑ったあと「仲間がいるから。僕が在日であろうと何であろうと、政治的に中立の立場で考え、『未来は自分たちで変えられる、できることはたくさんあるんだ』って、ともに動いてくれる日本の仲間がいることに、一番支えられています」と徐さんは前を向く。
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投票時間は原則、午前7時から午後8時まで。投票所によっては時間を短縮するため、各選挙管理委員会に確認を。(川村直子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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