日本の新型コロナウイルス対策の基礎となるデータ解析をしてきた京都大学大学院医学研究科教授で理論疫学者の西浦博さん。「8割おじさん」として一般の人にも広く親しまれる一方、国民に直接説明する役割を引き受け、批判も数多く受けてきた。この第1波の経験を聞き書きの形で記録した著書『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』(聞き手・川端裕人、中央公論新社)を12月9日に出版するが、どんなことが書かれ、どんな思いを込めたのか。出版社が主催したグループ取材の最終回は、この本について聞いてみよう。※取材前半は参加媒体の事前質問のうち共通する質問に答え、後半は各社1問ずつの個別質問に回答する形で行われた。追加取材し、読みやすいように構成を変えている。【BuzzFeed Japan Medical / 岩永直子】
ずっと悩んできたリスクコミュニケーション
――本の中でリスクコミュニケーションに悩まれていたことを改めて知りましたが、政府、または誰がどのようなコミュニケーションを取るべきだったと考えますか? リスクコミュニケーションには専門の先生がいます。 科学コミュニケーションだったら、流行中は東京理科大学の堀口逸子先生にお世話になりました。本にも登場しますが、この方が厚生労働省のクラスター対策班の中に入って、「あんたこうしなさいよ」といつも背中を押してアドバイスをしてくれていました。 第1波で流行の制御が難しくなりつつあり、国や専門家へ様々な批判が集まりはじめる中、それでも勇気を持って科学的情報を届けることになりました。批判を受けるきっかけにはなったかも知れませんが、会見して説明を続けたことには絶対に意味があったと思っています。 より、リスクコミュニケーションや危機管理に近い話は、東大の武藤香織先生という専門家会議や分科会に入られている方が担当してくださいました。いつも現状分析とか見解の文章化にも関わってくれました。 政府と専門家との距離感をどう取るかについても、武藤先生が専門家のプライドを持って主張すべき範囲や境界線を教えてくれました。唯一無二のブレインです。 そういうプロがいる中でも、私自身の専門がとても難しく、政策判断にも重要な役割を果たしていましたから、直接的に話す機会がたくさんありました。 専門家があまり表に出るべきではない時期にも、やっぱり表に出なくてはいけない。あえて科学コミニュケーションに挑戦してきたんですよね。だから本もこういうタイトルにしてもらっています。 《僕たちの立場から本音を言うと、本当は政権に専門家の役割を支持する言葉の一つも言ってほしいわけです。専門家の科学的アドバイスをもとに、政府が責任をもって要請しているんだ、と。だから一つひとつの対策をみなで我慢してやっていくんだ、と。建前だけでもいいから「俺たち政治家の責任だ」と言う人はいないのかなと思いきや、担当大臣は自分に問われて「安倍総理が」と言う始末ですし、それどころか、政府は責任転嫁のために僕たちを引き合いに出し始めます。》 『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』第3章緊急事態と科学コミュニケーションより その中でやっぱり制度としては、日本政府に「科学顧問」がいればなというのは強く感じてきましたし、これが現時点まで変わっていないのは大丈夫なのかなと、本当に不安に思います。 分科会会長の尾身茂先生がとりあえず臨時科学顧問みたいになっているのはまあいいと思うのですけれども、制度も作られていない。 科学顧問を支えるリスクコミュニケーターは国にとっては「情報の出し方」のプロくらいにしか捉えられていない。科学コミュニケーションの専門性を軽視しすぎている。 おそらくそういうものを作るのは、科学が若干軽視されがちな今の政府では厳しいんだなという感覚を持ちました。作り変えないといけない制度だとは思っています。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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