待遇や働く環境に我慢を強いられてきた人たちが新たな選択をしやすくなっている。半面で、待ち受けているのは、生活を支える人々がいなくなる世界だ。
連載「8がけ社会」
高齢化がさらに進む2040年。社会を支える働き手はますます必要になるのに、現役世代は今の8割になる「8がけ社会」がやってきます。今までの「当たり前」が通用しなくなる未来を私たちはどう生きるべきでしょうか。専門家の力も借りながら、解決に向けた糸口を探ります。
建設作業員だった須加(すか)龍二郎さん(54)は半年前、建設業界に見切りをつけた。取引のあった元請けから仕事を受けてくれと頼まれても、「割が合わない仕事は受けない」。
どこも人が足りていない。だが須加さんは「そんなこと知ったこっちゃない」と吐き捨てる。
30年以上、下請けの下請けだった。大学は中退。23歳で飛び込んだのが建設業界だった。
理不尽に耐え続けた30年
ピラミッドの産業構造のなかで、元請けの言うことは「絶対」。機嫌を損ねれば「おいしい仕事」を振ってもらえなくなる。本業はガラスの取り付けやサッシの張り替えだったが、頼まれれば土も掘り、産業廃棄物も運んだ。無理な工程を組まれて、深夜まで作業を強いられることも。理不尽だと思うことも、ぐっと耐えてきた。
日当はピンハネされ、自分の手元に入る金額はわずか。転職しようにも、選択肢はアルバイトぐらい。「逃げ場がないんだよ。どんづまりよ、どんづまり」
その間、働き手の中心となる現役世代(生産年齢人口の15~64歳)は1995年の約8700万人をピークに減り続け、2013年には8千万人を割った。
景気の移ろいはあれど、14年からは有効求人倍率が1を上回り続けている。
この流れに乗るように、須加さんは23年夏から個人事業主としてフードデリバリーの仕事を始めた。
「俺が仕事を選ぶ側」
すると、月収は40万円を超え、建設現場の仕事よりも実入りが良い。
配達に時間がかかるタワーマ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル