埼玉県の郵便配達員だった男性が自ら命を絶ってから9年余り。国を動かしたのは、妻(52)の執念だった。
「国が認めてくれたよ。家族のために一生懸命働いてくれてありがとう」。夫の過労自殺認定の報告を受けた30日、妻は自宅の仏壇に報告した。子どもからは「お母さん、よく頑張ったね」とねぎらわれた。
夫の様子が変わったのは2006年。首都圏有数規模のさいたま新都心郵便局への異動がきっかけだった。職場の合言葉は「ミスるな、事故るな、残業するな」。ミスした局員は「お立ち台」と呼ばれる台に立たされ、数百人の局員の前で謝罪させられた。夫は「次は自分かもしれない」といつもおびえていた。
局では年賀はがきだけでなく、歳時ごとの物販にも重いノルマがあり、毎年のように自腹で購入させられた。明るかった夫から次第に笑顔が消え、休日もふさぎこむようになった。
主治医からは休職を勧められたが、夫は「今は休めない」と断った。そして10年12月、妻と子ども3人を残して逝った。
当日の朝。最寄り駅まで見送った妻の携帯に夫からの最後のメールが届いていた。「ありがとう いつも ●●ちゃん(妻の名前) ごめんね 行って来ます」
「夫が亡くなったのは会社のせい。無念を晴らしたい」。妻は労災の申し立てを決意したが、最初に相談した弁護士からは「残業時間が長くないので労災認定は難しいだろう」と言われ、途方に暮れた。
転機が訪れたのは12年末。労働問題に詳しい別の弁護士が「まずは会社に対する訴訟を起こして証拠を集めましょう」と引き受けてくれた。夫の過酷な勤務実態を示す証拠や同僚からの証言が集まり、自殺当日、夫が上司から厳しく叱責(しっせき)されていたことも分かった。
「うちの局でもパワハラがひどい」「年賀のノルマがきつい」。他局の局員からも情報が次々と寄せられた。17年10月には労基署から不認定の決定を受けたが「夫と同じように苦しんでいる人が多数いる」とすぐさま不服を申し立てた。
昨年6月に発覚したかんぽ生命保険の不正販売問題でも、背景に現場への過酷な営業ノルマがあったと指摘されている。妻は訴える。「9年前と何も変わっていない。今度こそ、社員を大切にする会社に変わってほしい」 (宮崎拓朗)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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