東京オリンピック(五輪)は開会式から17日間の日程を終え、8日の閉会式には世界各地の選手たちが集った。コロナ下の異例の大会は、アスリートが輝きを放つ一方、感染爆発にさらされた。光と影の両面があった祭典は日本に何をもたらし、社会はどこへ向かうのか。
大会中、列島はコロナの「第5波」に襲われた。
五輪開幕後の7月下旬。神戸市の訪問看護師、藤田愛さん(55)の元に、友人が東京で新型コロナに感染したという女性からSNSのメッセージが来た。「友だちは症状を保健所に相談したいのに電話がつながらない」。第4波の経験をSNSで発信していた藤田さんを見つけたという。
この友人はその後回復して大事には至らなかったが、女性には「医療につながることができず不安だった」と言われた。入院が必要な多くの人が自宅待機を強いられ、「医療崩壊」が起きた関西の第4波で、何度も聞いた言葉だ。
藤田さんは自宅療養中のコロナ患者をのべ300回以上訪問した。軽症だとしても医療や行政とつながれず、自宅で過ごす恐怖は計り知れない。首都・東京が当時の神戸の状況に近づきつつあることを実感した。
爆発的に増える感染者数に懸念を抱く自分も五輪を楽しんだ部分はあった。普段は別々の部屋で過ごす子どもたちと一緒に居間で観戦した。4日にあった野球の日本対韓国で終盤に日本が勝ち越した際は、「一瞬だけコロナのことを忘れさせてくれた」と思う。
社会の自粛は限界だと思う。「感染者増の直接の原因は五輪ではないと思うが、感染対策の緊張感と五輪を楽しむことは両立できない」と感じてきた。実際、五輪期間中にも大人数でバーベキューをしたり、酒を飲んで騒いだりする動画をSNSでたくさん目にした。
祭典は終わるが、「自粛のメッセージを発してももう伝わらない。ワクチンだけが頼み」と思う。兵庫県内の自宅療養者も増えている。第4波では入院すべき人が入院できなかった。「第5波では自分が精神的に耐えられないのではという気持ちもある」と言うが、訪問看護を必要としている人がいれば、すぐにでも行く準備を進めている。(堀之内健史)
異形の祭典 市民はどう見た
この後、86歳の聖火ランナー、スポーツバーの店主、ホストタウンの宿泊先が登場します。光と影の両面があったオリンピックをどう見たか、何を残したのか、これからの社会について語ります。
■86歳の聖火ランナー「胸が…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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