「元少年」30歳の被告、法廷では実名?匿名?法的な取り決めはなし

 神戸市北区で2010年、高校2年の堤将太さん(当時16)を刺殺したとして、神戸地裁は23日、被告の男(30)に懲役18年の判決を言い渡した。被告は事件当時17歳。裁判で「元少年」の実名をどう扱うかのルールはなく、今回法廷で実名は公開されなかった。法整備の必要性を指摘する識者もいる。

 7日に開かれた初公判。丸田顕裁判長は冒頭、こう述べた。

 「被告の名前や身元については、明らかにせずに裁判を進めます。反対のご意見があることも承知している。慎重に丁寧に審議していきたい」

 起訴内容は10年10月4日夜、堤さんをナイフで刺して殺害したというもの。捜査は難航し、兵庫県警が被告を逮捕したのは事件から11年後。被告は28歳になっていた。

 少年法は、罪を犯した20歳未満の少年について、家庭裁判所で非公開の審判に付すると定めている。また、事件当時18歳未満であれば、起訴されて公開の法廷で審理されたとしても、実名など本人と推定できる報道を禁じている。

 中央大の藤本哲也名誉教授(犯罪学)は「未成熟で柔軟性の高い少年の氏名を公開することが、社会復帰の妨げになる可能性があるから」だと説明する。

 堤さんの父、敏さん(64)は少年法の趣旨に理解を示しつつ、「いま30歳の人間を、匿名の『元少年』として裁くのか」と疑問を呈する。

 事件当時に20歳未満でも、逮捕時に20歳以上であれば、刑事手続きで少年法は適用されず、家裁を経ずに検察が起訴し、刑事裁判で裁かれる。

 刑事裁判は公開で行われるが、少年や事件当時少年だった被告を法廷で実名で扱うか、匿名で扱うかを定めた法令はない。神戸地裁によると、裁判官の裁量に委ねられ、裁判所の内規もないが、一般的には匿名で扱うことが多いという。立命館法科大学院の渕野貴生教授(少年法)は「(実名報道を禁じた少年法の理念を)裁判所も考慮せざるを得ないのでは」とみる。

 渕野教授によると、「18歳未満のときに起こした事件で、10年以上過ぎてから逮捕、起訴されるケースは珍しい」という。だが、殺人罪などの公訴時効は2010年に廃止され、DNA鑑定などの捜査技術も進展している。「以前なら法的にも技術的にも立件できなかった古い事件が法廷に持ち込まれやすくなった」と指摘する。

 法廷で実名が公開されれば、傍聴した人がSNSに投稿する可能性もある。「情報の発信主体も多様化している。法廷での元少年の実名の扱いについて、法整備が必要では」と渕野教授は言う。(黒田早織)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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