<一面掲載コラム>
福岡市内の美容室で働くM君(18)は先日、中学で担任だった女性教師に電話をかけた。久しぶりに聞く懐かしい声。「S先生、俺、受かりました」「何の話?」「美容師の国家試験です」
▼職場で電話を受けたS先生は、いきなり大声で泣きだし、M君の方が驚いた。「よく頑張ったね」。しばらく話して落ち着いた恩師は「この泣いた顔じゃ、仕事に戻れんよ」と笑って電話を切った
▼荒れた中学時代だった。両親に反発し、口もきかなかった。問題を起こして児童相談所に呼び出された時、付き添ってくれたのはS先生だった。親や教師の説教はうんざりでむかついた。S先生だけはがみがみ叱らず、いつもこう言った。「M君は大丈夫。『わかる子』だから」。当時はその意味が理解できず、優しい先生だと思って頼っていた
▼中学を卒業して建築の現場に。仕事はきつかった。働いて給料をもらうことの厳しさとありがたさが「わかった」。自立するには技術や資格が役に立つことも「わかった」。小言ばかりだった母親の気持ちも、ようやく
▼M君は働きながら通信講座で学び、夢をかなえた。新米美容師はまだ女性のカットはできない。腕を磨いてS先生の髪を切ってあげようと思う。ずっと見守ってくれたお返しに、今の自分にできることで
▼きょうは冬至。ぽかぽかと体が温まるゆず湯にしよう。M君からもらった「ぽかぽか」もお湯に加えて。
この記事は12月22日付朝刊に掲載されました。
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