「多くの人々と触れ合い、直接話を聞く機会を大切にしていきたい」。23日、60歳の誕生日を迎えた天皇陛下は、即位後初の記者会見で決意を新たにされた。すでに被災地お見舞いや地方訪問を果たし、国民に寄り添われてきた上皇さまの思いを継承する一方、臨席する式典では、国歌斉唱に合わせて「日の丸」に向き合う独自のスタイルを取り入れられている。ご即位から約10カ月。理想の象徴天皇像に向けたご実践が始まっている。
昨年12月26日、陛下は皇后さまと、台風19号の被災地である宮城県丸森町と福島県本宮市を訪問された。「ご無事で何よりでしたね」「お大事に」。腰をかがめ、励ましの言葉をかけ続けられた陛下。被災者から差し伸べられる手を何度もやさしく握り返された。
丁寧なご交流は地方訪問でも見られる。昨年9月、「国民文化祭」のために訪れた新潟市では、障害のある児童、生徒が「大凧(おおだこ)」に色を塗る作業を視察された。予定時間を気にする案内役がご移動を促すと「まだ話していないんです」。目の前にいた男子生徒を素通りせず「大きいから色を塗るのも大変でしょう」と語りかけられた。
国民との触れ合いは、上皇さまが最も大切にされてきた象徴天皇の活動の一つ。陛下はそうした“平成流”を受け継ぐ一方、独自色も出されている。
昨年9月の「全国豊かな海づくり大会」(秋田市)。舞台の上で客席と対面して座っていた両陛下が、国歌斉唱の際に立ち上がり、客席に背を向けられる場面があった。「君が代」が流れる間、両陛下の頭上に飾られた「日の丸」に視線を向け、会場の人々とともに敬意を示された。こうした所作は、ご在位中の上皇ご夫妻には見られなかったが、陛下は皇太子時代から続けられている。
皇室の歴史に詳しい小田部雄次・静岡福祉大名誉教授は「陛下の新たなご所作は、国民が、国旗と陛下とを一体化して仰ぐのではなく、陛下も国民と同じ目線で、ナショナリティーの形象である国旗を仰ぐことを意味する。このことは、戦後の『国民とともに歩む皇室』というスタンスから、さらに踏み込んだご姿勢といえるのではないか」と話している。
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Source : 国内 – Yahoo!ニュース