「地元のリンゴ未来につなぐ」感謝と決意胸に水害と向き合う 千曲川氾濫の長野市(産経新聞)

 台風19号による大雨で千曲川が氾濫し、大規模な浸水の被害に見舞われた長野市では、収穫を目前に控えた特産のリンゴも打撃を受けた。農家は今季の収入源を絶たれたほか、再建には泥水をかぶった畑の土を入れ替え、壊れた高価な農機具を買い替える高い壁が立ちはだかる。廃業の選択肢もちらつくが、徐々に前を向こうとする農家の姿も。「未来へとつなぎたい」と、決意を新たに復興を見据えている。(中村昌史)

 千曲川の決壊場所近くを通る国道18号は「アップルライン」と呼ばれ、農家や直売所が軒を連ねる。例年なら収穫を迎えたリンゴが店頭に並び、甘い香りが辺りを包むが、今年は活気がない。至る所で、折れた木々が散らばり泥にまみれたリンゴも地面に転がる。

 「壊滅的被害です」

 同市の赤沼地区を中心に「フルプロ農園」を営むリンゴ農家の徳永虎千代さん(27)は、ため息を漏らす。4ヘクタールのリンゴ畑の8割以上が水没、農機具や設備も浸水被害で使いものにならなくなったという。徳永さんは「目先の被害だけではない。この先、どうなるのか」と表情を曇らせる。

 リンゴは繊細な果物で、こまめな手入れを必要とする。苗木が収穫を期待できるまでに育つには、10年以上かかるとされる。濁流に漬かったリンゴの木々の多くは再生困難とみられる。再建には土を入れ替えるなどの作業を強いられ、多くの農家では、来季も満足な収穫は見込めない。

 長野県のまとめでは、長野市内の果実の被害総額は3億円超。大部分はリンゴとみられている。市の担当者は「可能な限り支援していく」とするが、高齢の農家では、多額の資金と労力を必要とする再建をあきらめ、廃業に踏み切るケースも相次ぐ恐れがある。

 徳永さんも畑だけではなく、事務所を兼ねた自宅も水没し一度は廃業の二文字が頭をよぎった。毎日のように顔を合わせていたおばの初美さん=当時(69)=も水害で亡くし、気力も失いかけた。

 ただ、この1カ月、わずかに被災を免れた高台の畑の出荷作業に没頭、被害を心配し駆けつけてくれた知人やボランティアとのふれあいを通し、改めてリンゴを作る喜びがかみしめるようになり、再建に突き進む決意を固めたという。

 インターネットで寄付を募り、被災した周囲の農家と共有する農機具を購入するなど、地域ぐるみの再生を加速させようとも考えている。

 「自分にできることを地道に積み重ね、いつか支援に応えたい。地元の大切なリンゴを未来へとつないでいきたい」

 徳永さんはそう力を込めた。

Source : 国内 – Yahoo!ニュース

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