能登半島地震ではインフラの復旧が進まない中、避難の長期化が予想されている。大勢の人が集まる避難所で、声を上げにくい人たちの困りごとにどう気づき、対応するか。過去の災害でも、女性や性的マイノリティーなど、多様な視点からの運営が検討されてきた。災害時に性暴力を防ぐための対策も、課題になっている。
石川県内で7日、避難所に家族で避難している女性(41)は「着替えるときに段ボールハウスの前に人に立ってもらっている。相当ストレスを感じる」と話した。また、高校生の娘がいるという別の女性(43)は「知らない人に囲まれているのでいつもより危険と、娘から目が離せない」と、不安を訴えた。
災害とジェンダーに詳しい静岡大の池田恵子教授によると、2011年の東日本大震災での聞き取り調査では、「わがままだ」と思われて避難所にいづらくなるのを恐れ、女性が「更衣室を作ってほしい」と言い出せなかった例があったという。また、就寝中に体を触られたといった証言があったという。
ただ、池田さんは「『1人で出歩かないように』などの自衛策は限界がある」と指摘。「若手を含めて男女がともに運営に参加することで、誰にとっても安全で過ごしやすい環境づくりができる」と助言する。
池田さんがすすめるのは、内閣府が20年に作った災害対応力の強化を目指すガイドラインの活用だ。例えば「女性トイレと男性トイレは離れた場所にある」「男女一緒に行う防犯体制がある」といった具体的な項目をチェックできるシートを、ネット上で公開(https://www.gender.go.jp/policy/saigai/fukkou/guideline.html
特に体にまつわる相談は、女性同士の方が話しやすいこともある。全国の自治体から被災地に応援に入る職員にも、「ぜひ女性が加わってほしい」と池田さんは話す。
「共同生活をするからこそ、性別や状況によって必要な物資や生活環境が違うことが明確になる。被災して疲れ切っておられ大変だと思うが、避難所でもできるだけ体調を崩さず、長期的に過ごしやすい環境づくりに取り組んでほしい」
自身の被災をきっかけに「声の小さな人」を取り残さないよう、避難所運営マニュアルの見直しを提言し、マニュアルが機能する態勢作りを訴えるのはひろしまNPOセンター(広島市)理事の香川恭子さん(61)だ。
香川さんは77人が犠牲となった14年8月の広島土砂災害で被災。避難所の責任者は町内会長や自主防災組織のリーダーなど、多くが中高年の男性だった。子育て中の女性や高齢者、障害者など、困難があっても言い出せず、見落とされていると感じた。
地域の女性たちと勉強会を重ね、様々な人に配慮した避難ルートや避難所運営などをまとめ、広島市に提出。「妊産婦、夜泣きする赤ちゃんがいる家庭などに個室を確保する」「下着や生理用品などは女性の担当者が手渡す」といった具体策を示した。
ただ、マニュアルがあっても、周知され、機能しなければ意味はないという。
能登半島地震では、帰省や旅行中に被災し、普段住んでいない地域の避難所に来た人もいる。「まずどういう人が避難所に来ているか把握する。そして、リーダーが当事者と対話し、『言えない人』『声の小さい人』が我慢し続けることがないよう、お互いに安心に過ごせるよう工夫する。コミュニケーションが大切です」と話す。(西崎啓太朗、大坪実佳子、花房吾早子)
◆内閣府男女共同参画局の「避難所チェックシート」から抜粋
・単身女性や女性のみの世帯用エリアがある
・女性向け用品の配置・相談スペースがある
・トイレが安全で行きやすい場所にある
・男女問わず1人で(または付き添いを受けながら)入浴できる場所がある
・管理責任者は男女両方を配置
・食事作り、片付け、掃除などの負担が特定の性別や立場の人に偏っていない
◆岩手レインボー・ネットワーク制作の「にじいろ防災ガイド」から抜粋
・避難所で作る名簿の性別欄は、記入を任意とするか自由記述欄を設ける
・避難した人の性自認が見た目や身分証の性別と違っても、生理用品やひげそりなど必要とする物資を受け取れるようにする。周りの目が気になる場合、個別に届ける
・男女別のトイレのほか、どんな人でも使えるトイレも設置
・呼ばれたい名前や扱われたい性別がある場合、できるだけ希望に添った対応を
・トランスジェンダー女性は女性。女性専用の相談サービスを使いたい人がいたら歓迎を
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
Leave a Comment