半島に広がる景色は365日、別の顔を見せてきた。
北海道斜里町は、知床半島の西側にある。中でも、絶景を多く抱えるのがウトロ地区だ。
そのウトロ沖で2022年4月23日、26人が乗った観光船が沈んだ。
時を戻すこと1年前。知床遊覧船で船長を務めていた30代の男性に、LINEが届いたのは2021年3月のことだった。
「考えましたが、今回方針は譲れないので、そのまま進めます。短い間ですが いろいろありがとうございました」
送り主は、同社の桂田精一社長。男性の契約打ち切りを伝える内容だった。
予兆はあった。
男性は20年12月、桂田社長と向かい合っていた。
当時、船長だった男性に対し、桂田社長は別の船長や甲板員、事務員ら4人の雇用契約を更新しないが、男性には残ってほしいと告げた。
男性は訴えた。
「いっぺんに経験豊富なスタッフを切ると、安全な運航ができなくなる。考え直してほしい」
4人を辞めさせるのであれば、自分も会社に残らないとも伝えた。だが、桂田社長は応じず、男性は会社を去ることになった。
観光業「しれとこ村」を営んでいた桂田社長が、知床遊覧船を買い取ったのは16年。しれとこ村を立ち上げた桂田氏の父・鉄三氏は、知床町議を5期20年務めた地元の名士でもあった。
「観光船業を営む人の多くは、道内の別の場所からやってきて開業した。地元住民からすれば『よそ者』だった」
見逃された異変
町関係者がそう振り返るよう…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル