男子柔道がオリンピック(五輪)の正式種目になった1964年の東京五輪で、ある女性柔道家が演武を披露した。まだ女子柔道が発展途上の時代。日本発祥の柔道の精神を世界に示した。この柔道家はのちに「世界女子柔道の母」と呼ばれた。それから57年。同じ東京で、同じ演武を、日本の姉妹が披露した。
28日、柔道女子70キロ級と男子90キロ級の決勝を夜に控えた日本武道館。真っ暗な館内に照明がともり、真ん中に黄色い畳が浮き上がる。中央に立っているのは、白い胴着に黒い帯の2人。しなやかな身のこなし、それでいて無駄のない理にかなった動きで攻防を表現し、15の技を演じた。
一般的な試合形式の「乱取り」と呼ばれる柔道に対し、順序と方法が決められた2人1組の演武は「形(かた)」と呼ばれる。披露したのは、石田桃子さん(31)と真理子さん(28)の姉妹。2017年と18年に世界形選手権で優勝した実績をもつ若い世代を代表するペアだ。2人とも柔道整復師で、桃子さんは名古屋市の米田柔整専門学校で教員を、真理子さんは同市内の病院でリハビリ関連の仕事をしている。
会場は無観客。テレビの中継もなかった。だが、畳のまわりでは海外選手の帯同者や大会スタッフが興味深く見守り、拍手を送った。約9分間の演武を終え、桃子さんは「一生に一度きりの舞台を楽しめた。これをきっかけに柔道の『形』に興味をもってくれる人が増えればうれしい」と話した。
この日2人が演武したのは、主に九つある形のうち「柔(じゅう)の形」と呼ばれるもの。比較的ゆるやかな動きのなかに、柔道の基本的な要素が凝縮されている。いわば柔道の神髄だ。
この形を、64年の東京五輪で演じた1人が、のちに「世界女子柔道の母」と呼ばれた福田敬子さん。1913年生まれの福田さんは、「柔道の父」と呼ばれる嘉納治五郎の勧めで講道館に入門した。51歳のとき東京五輪で「柔の形」を披露した。
64年の東京五輪から2年後…
この記事は有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。
残り:466文字/全文:1285文字
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル