旧優生保護法(旧法)の下で不妊手術を強制されたのは違法だとして、札幌市の小島喜久夫さん(80)が国に1100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が2日、札幌高裁(大竹優子裁判長)であった。小島さんは法廷で「国による優生手術で、子どもを持つことができなくなった苦しみに思いを寄せて」と訴えた。
訴状などによると、小島さんは19歳のころ、警察官に精神科病院に連れて行かれ、診断なしに精神疾患を理由に不妊手術を受けさせられたという。2018年5月、全国で相次いで起こされた旧法をめぐる訴訟の原告としては初めて実名を公表して提訴した。
今年1月の一審・札幌地裁判決は旧法の違憲性を認定。「子どもを産み育てるか、意思決定をする自由を侵害した」「精神病患者などを差別的に扱っている」と指摘し、幸福追求権を保障した憲法13条と法の下の平等を定めた14条に反すると判断した。
さらに、家族に関する制度の立法について定めた24条に対しても、「個人の尊厳に立脚しているといえず、合理的な立法裁量の限界を逸脱している」と指摘し、違憲とする初判断を示した。
一方、裁判そのものは原告敗訴となった。壁になったのが民法が定める「除斥期間」。一審判決は小島さんが手術を受けた1960年ごろから20年以上が経過し、民法上の損害賠償請求権が消滅したと判断した。
2日の高裁第1回口頭弁論で、原告側は一審判決の除斥期間をめぐる判断について反論し、「日本が加入する拷問禁止条約や国際慣習法は時効が適用されない」と主張。判例などから「条約が国内法より優先されるのが通説だ」として除斥期間の適用を制限するように求めた。
さらに、一連の訴訟で最高裁の判断が出ていない段階では、除斥期間は適用できないとする民法学者の意見書を提出した。
小島さんは意見陳述で、「2018年1月に仙台地裁に同種訴訟が提訴されて、初めて手術が不法行為だと知った」と訴えた。原告代理人の小野寺信勝弁護士は「機械的に除斥期間を適用するのではなく、被害の回復につながる判決を希望する」と述べた。
国は手術の有無や旧法の違憲性は争っていない。「国際慣習法は法的拘束力がない。除斥期間の起算点は、損害が発生した手術の実施時だ」などとして、控訴棄却を求めた。
閉廷後の会見で、小島さんは「自分の子どもを見たことがない。手術されて子どもがいない。その悔しい気持ちをぶつけた。裁判官や国に、私の言葉が通じると思っている」と語った。(川村さくら、平岡春人)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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