「守られすぎると人は逃げない」 研究者が自問した防潮堤の役割とは

 有川太郎さん(49)は海岸工学研究者として、防潮堤をつくる際の指針づくりなどにかかわってきた。だが各地の津波被害の事例を調べる中で、高い防潮堤があるせいで、人は逃げ遅れてしまうのではないかと考えるようになったという。では、防潮堤はいったい何のためにあるのか。有川さんに聞いた。

 防潮堤の高さが人々の安心感を助長し、万一の時に逃げ遅れを招くのではないか。いまはそう考えています。

 日本では戦後の高度経済成長時代を通じ、海岸の防護施設が造られてきました。1950年代に大型台風による高潮被害が相次いだことから、ハードの整備で沿岸部を守ることになったのです。約30年かけて築かれ、大きさでギネス世界記録にも認定された岩手県釜石市の「湾口防波堤」などは、その象徴でした。

 この間、何度か津波被害もありましたが、防潮堤が大きく壊れることはなかった。

 私たち研究者も、津波が防潮堤を乗り越えてくるとは考えていませんでした。防潮堤がどう壊れるかという研究も皆無。思考停止状態だったのかもしれません。

 そこへ東日本大震災が起きます。防潮堤をはるかに上回る高さの津波が押し寄せ、倒壊させた。多くの人が逃げ遅れました。

 その後、政府の中央防災会議は、大きな方針転換を打ち出します。

 数十年から百数十年に一度の規模の津波は、防護施設でくい止める。それを越える大津波は、避難と背後のまちづくりによって被害を減らす。ハードによる「完全防護」から、ハードとソフトの組み合わせでの「減災」へと、かじを切ったのです。

 ただ、人々の意識はどれだけ変わったでしょうか。

 去年1月、トンガ海底火山噴…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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