「宗教者のG20」京都でAI・中絶を議論(産経新聞)

 大阪市で行われる20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)を前に、世界各国の宗教指導者らがタイムリーな社会問題を話し合う異色の会議が京都市で開かれた。その名も「G20諸宗教フォーラム2019」。人工知能(AI)や生命科学といった課題に、仏教の僧侶やキリスト教の神父・牧師、イスラム教の聖職者など約140人が危機感を持ち、知恵を出し合ったのだ。世俗の政治を離れた宗教者の視点から政策提言を行い、G20サミットの議論に補助線を引く役割を果たそうとしている。

■AIが突きつけた「人間性」

 フォーラムは6月11、12の両日にあり、JR京都駅前のキャンパスプラザ京都(下京区)で8つの分科会が行われた。中でも注目を集めたテーマが「AIの脅威と責任」と「生命科学と宗教」だった。

 「AIの脅威と責任」では、神職の資格を持つ奈良女子大の才脇直樹教授(人間情報学)が、巡航ミサイルから自動走行車までさまざまな製品にAIが活用されている現状を紹介。人間をサポートする利点がある半面、悪意を持ってわざとアクシデントを引き起こすことが、脅威につながると指摘した。

 議論の中で、AIの脅威には2種類あると集約された。1つはAIを道具として使い、人間が実行する犯罪行為。もう1つが、人間が制御しきれなくなってAI自身がもたらす脅威だ。

 前者に対しては、心や精神の修養、倫理観や道徳心の向上といった宗教による課題解決を目指すべきだと提言。一方で後者には、管理できる人材の育成など、世俗的な取り組みが必要だと結論づけた。

 AIの台頭は、裏を返せば“人間性”とは何かという問いをも突きつけている。東京大工学部物理工学科卒で、化学メーカーでの勤務経験がある宗教法人「むつみ会」の滝澤俊文宗務長は「どんなにAIが発達しても、人間の知性とはまったく異なる。アンドロイドを人間のように錯覚することには警鐘を鳴らしたい」と述べた。

■「生命の尊厳」科学者に響くか

 「生命科学と宗教」では、胎児の染色体異常を調べる出生前診断によって、人工妊娠中絶を行うことが「いのちの選択」につながるのではないかという議論が深められた。

 パネリストとして登壇した高野山真言宗観音院(堺市南区)の大西龍心住職は、宗教者と科学者には生命を守るという共通目的がある一方、「生命の尊厳という言葉が科学者に響くのか」と問題を提起した。

 その上で、胎児の命を奪う行為と、元官僚が40代の長男を殺害した事件を対比。「科学のアクセルを宗教がハンドリングするのは難しいが、人々の心を変えることは可能だ」と語り、宗教・宗派を超えて心を救うことの必要性を訴えた。

 今回のフォーラムで運営委員長を務めた金光教泉尾教会(大阪市大正区)の三宅善信総長は「生命を人間の所有物とみなすのではなく、われわれの体に所属していると踏み込んで考えるべきだ」と強調した。

■経済成長…負の側面に着目

 G20諸宗教フォーラムは、先進8カ国(G8)主要国首脳会議に合わせて宗教界の声を届けてきた「G8宗教指導者サミット」を前身としている。経済や政治の枠組みだけでなく、宗教を含めたあらゆる英知を結集させ、地球規模の課題に取り組むべきだとの考えが根底にあった。

 世界経済の協調の舞台が新興国を加えたG20体制に移行しつつあることなどを踏まえ、2014年からは毎年G20サミットに合わせて開催国で行われている。

 今回は16カ国が参加し、格差がもたらす貧困やビジネス競争が招く人権侵害など、経済成長の負の側面に着目した。トランプ米大統領らが主張する自国第一主義の台頭などの国際情勢も踏まえた上で、分科会のテーマを設定したという。

 採択された宣言文には「利益の極大化のみを目的とするG20の議論を少しでも修正するために、われわれ宗教者は全地球的観点からあらゆるいのちを尊重する立場に立つ」と記されている。14日に首相官邸に提出された。

 ◆田中幸美(たなか・さちみ) 埼玉県生まれ。東京本社で約10年間カメラマンとして勤務し、その後記者に転身。東京本社文化部や横浜総局などを経て、現在は京都総局で宗教と文化を担当する。神社とお寺巡りが好きで、御朱印帳は約20冊にのぼる。

Source : 国内 – Yahoo!ニュース

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