「彼ができたら連れてきて」婦人科医の僕がすすめる理由

 あなたに知っておいてほしい、カラダや性の話をつづるコラムです。小学6年生の女の子に「彼氏ができたら連れておいで!」と言う産婦人科医がいるのか、といぶかしく思われる読者の顔が浮かびます。いるのです、「僕」です。

 初経後、月経不順が気になっていた小6のKさん。母親に連れられて受診しました。しばらくして、年齢相応の月経周期となり、少し様子をみようということになりました。僕は通院はいったん「卒業」であることを告げ、そしてこう加えました。「彼氏ができたら、セックスする前に受診すること」。なぜかはこの後明らかにします。

 その後も折に触れて受診していたKさんは、大学2年生になりました。あるとき、久しぶりにクリニックに顔を出しました。「どうしたの?」と尋ねると、「彼氏ができたの」と。「もうセックスしたのか?」。長い関わりができると、こんなことを聞くのも決して特別ではなくなってしまうのです。

 両手をクロスさせてKさんは否定しました。「だって、彼ができたら連れて来いって言っていたじゃない」

性感染症検査を受けた彼、結果は

 同伴した彼氏を診察室に招き入れ、僕はこう切り出しました。「よく婦人科のクリニックに来てくれたねえ」と。「きっかけは何?」と尋ねました。「実は、大学2年になって付き合い始めて数カ月。あるとき僕は居ても立ってもいられず、彼女にキスを求めたんです。そしたら、『やめて!』と拒まれました。『どうして?』と返すと、『ごめん、北村先生が呼んでいるの!』と」

 突然男性の名前が出てきて驚いたろうに、彼はKさんの受診に合わせて同行したというわけです。

 僕としては、一連の2人のやりとりを聞きながら、「偉い! 同意のないキスを強要したら暴力だものね。よく来てくれた。ありがとう!」と彼を褒めちぎりました。

 彼だけを診察室に残し、僕は医師の立場でこう尋ねました。「ところで…セックスの経験はあるの?」

 頭を縦に振る彼。「わざわざ来てくれたのだから、性感染症の検査をしてもいいかな?」。「それが条件ですから」と簡単に了解してくれました。セックスする前に検査をというKさんからの提案があったということです。

 1週間ほどで検査結果が届き、僕は、彼に「クラミジア陽性、つまりクラミジアに感染している」と告げることになりました。その日に、早速、薬をのんでもらい、2週間後再検査。晴れて「陰性」という結果が届きました。その後、2人の付き合いは続いているようです。

症状がないことも多い

 性感染症とは、「性行為や性行為に類似する行為で感染する病気」のことを言います。「性行為に類似する行為」とは、口で性器や肛門(こうもん)などを刺激する行為や、肛門(こうもん)性交などを指します。

 性感染症には、梅毒、淋病(りんびょう)、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、後天性免疫不全症候群(HIV/エイズ)、クラミジアなど、多数の病気があります。

 一方で、性器の周りに水疱(すいほう)ができる性器ヘルペスやとさかに似たいぼで見つかる尖圭コンジローマなどを除いて、これといった症状が乏しいのが特徴です。

 だから、僕が性教育の講義をする時には、「こういう症状が出たらこの病気」などという解説を極力しないようにしています。症状から病気の種類を見極めるのは医師の責任だからです。そうでないと、「症状がないから心配ないですよね」と放置してしまうことになりかねません。

 僕の著書「ティーンズ・ボディーブック新装改訂版」(中央公論新社)には、性感染症の特徴を次のように表現しています。

・男女差別をしない

・顔で選ばない

・お金があるなしは関係ない

・学歴不問

・セックスの経験に無関係

・職業で選ばない

・性器からだけうつるのではない

 要するに、セックスをする人であれば、誰でも性感染症になる可能性があると知っていて欲しいのです。

パートナーが変わったらまず検査

 だから、僕のクリニックでは、「付き合っている相手と別れたら、次の付き合いが始まる前に検査をしよう!」が、患者との合言葉になっています。この検査の結果、必要に応じて治療する。これを完了して始めて、本当に相手と「別れた」ことになるのです。次のパートナーが現れたら、その結果を堂々と見せる。そして「会って欲しいおじさんがいるの」と。

 僕のクリニックではこんなやりとりが繰り返されています。全員とは言えませんが、婦人科医である僕のところに彼が連れて来られることは決してまれなことではありません。

 性感染症の不安から解放されてこそ、「幸せのセックス」を実現する第一歩だと僕は考えています。性感染症をいたずらに恐れる必要はないのです。

 「コンドームを使えばいいだろう」「簡単には治療が完了しない病気だってあるだろう」とおっしゃる方がいます。そのあたりのことについては、次回のアピタルをお楽しみに。(アピタル・北村邦夫)


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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