新型コロナの感染拡大をうけて、首都圏に2度目の緊急事態宣言が出されます。街の風景はどう変わるのか。社会部の記者たちが7~9日の3日間、東京・渋谷から報告します。
7日20:00
渋谷区宇田川町のデパート「PARCO渋谷」入り口に飾られたドラえもんの像の周囲で、何度もスマートフォンで写真を撮っている男性がいた。都内の会社員男性(57)。仕事帰りに用事があって渋谷に寄ったら、偶然見つけたという。
「いま、ドラえもんに一つ、道具を出してもらえるとしたら」と尋ねると、男性は「実はあまり詳しくはないんだけどね……」と言って数秒考え、「タイムマシンですかね」と答えてくれた。「やはり国は新型コロナウイルスを甘く見ていたと思う。感染が拡大する前の世の中に戻って、命を最優先にした政策をとってもらいたい」
新型コロナで友人を2人、亡くしたという。一人は60歳だった。「私も新型コロナの本当の恐ろしさをわかっていなかったのだと思う」。当たり前のように満員の電車に揺られ、通勤していたからだ。
男性は詳しい仕事の内容は教えられないということだったけど、8日からも、しばらくの間は出勤が必要だという。「寄り道もきょうが最後。経済も大事だけど、命がなくなったら、楽しいことも何もできなくなってしまうから」
拡大するデパート前に飾られたドラえもんの像の周りには、スマートフォンで写真を撮る人の姿が絶えなかった=2021年1月7日午後8時10分、東京都渋谷区宇田川町、山本亮介撮影
7日18:15
渋谷のワインバー。緊急事態宣言をめぐる菅義偉首相の記者会見が始まる5分前から、従業員の女性(33)は店内のテレビを準備し、経営を心配するお客さんと一緒に見つめた。
会食を介した感染が増えている、と画面の向こうで菅首相が理由を説明をする。女性は「どうして飲食店が狙いうちされるのか。会食が悪いという根拠はあるのだろうか」と不満を漏らした。
同店はコロナ禍の前までは夕方から未明までを営業時間としていた。酒類の提供が午後7時までとされたことに対し、「昼飲みする人は少ない。現実を分かっていない」。協力金についても「家賃が高いところと低いところで一律支給はおかしい。つぶれる飲食店が出てくるだろう」と顔を曇らせた。
拡大する「店名公表すれば、そこの店に集まり、密になる。昨春もそうだった」。菅首相会見をテレビで見る飲食店の従業員(左)らからは不満が漏れた=2021年1月7日、東京都渋谷区、木村浩之撮影
7日17:00
宮下公園跡地に昨年6月オープンした商業施設「MIYASHITA PARK」。「4階建ての公園」をコンセプトに約90店が軒を連ねる。明治通り沿いの1階はフランスやイタリアの高級ブランド店が並び、ロングコート姿の男性スタッフが客を招き入れた。
一方、すぐそばの公園の公衆トイレの脇では、毛玉の目立つニットを重ね着した男性(47)が、衣類や調理器具が詰まったキャリーバッグを整理していた。横浜市のアパートから立ち退きを迫られ、昨年9月から路上生活が続いているという。
都内の感染者数が2千人を超えたと伝えると、「この半月、公園から見える電車の乗客数が減ったと感じていた。まだ増えるんじゃないかな」と話した。2度目の緊急事態宣言が出される見込みと知り、「苦しくても我慢できる人とできない人がいる。我慢できる人に合わせる政策はとってほしくない」という。
持っていた衣類をリサイクルショップに売り、大手ディスカウントショップで一玉30円ほどのうどんをまとめ買いする。カセットコンロでゆでる素うどんが主食だ。まだ数カ月分は生きていけるという。隣で寝起きする同じくらいの年齢の男性がこの2日間、荷物を置いたまま姿が見えないのが気にかかる。
都内の気温は8度ほど。風が強く、街路樹を揺らす。男性は肩をすくめ、この日の午前中に明治神宮に行ったことを教えてくれた。人影の少ない社殿で手を合わせ、祈ったという。「自分だけがよければいい、という考えの人がどうか少なくなってほしい」
拡大する商業施設に面した歩道脇に置かれた荷物。男性によると、路上で生活する人たちの所持品という=2021年1月7日、東京都渋谷区神宮前6丁目、山本亮介撮影
7日15:10
スクランブル交差点を見下ろす大型ビジョンに「東京都で新たに2447人の新型コロナ感染確認」の速報が流れる。
ハチ公前で友人を待ちながらスマホをいじっていた大学生の男性(21)は「あっという間に1千人、2千人と増えたから、過去最高と言われても『またか』と思っちゃう」と話す。
富山の実家への帰省をやめ、飲み会は控えている。「マスクを外して話さないから大丈夫」と、この日は友人と買い物に来たという。緊急事態宣言が出されることはニュースで知ったが「何が制限されて何は許されるのか、正直よく分からない。前回みたいに飲食以外も閉まったら困るけど」。やがて友人が到着し、「SHIBUYA109」へと向かっていった。
拡大する大型ビジョンでは東京都の新規感染者数を伝える速報が流れた=2021年1月7日午後3時48分、東京都渋谷区、増山祐史撮影
7日13:00
ハローワークには、若者から高齢者まで幅広い年代の人たちが仕事を探しに訪れていた。
世田谷区に住む男性(46)は昨春まで印刷会社に派遣社員として働いていたが、新型コロナウイルスの影響で契約が更新されなかったという。しばらくはイベントスタッフなど単発の仕事で食いつないでいたが、感染が「第3波」を迎えた昨秋に、ついに仕事が入らなくなった。
10万円ほどの貯金はあっという間になくなり、家賃も滞納が続く。「このままだとのたれ死んでしまう」と、わらにもすがる思いで仕事を探しにきた。
比較的求人が多いのは重労働だが、腰に持病を抱えているため、できない。「緊急事態宣言が出たらどうなるのか。明日生きていけるかも心配だ」とこぼす。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル