「感染抑えながら、経済も回して」 浅草 人力車夫は走る

 秋晴れの東京・浅草。観光人力車や日本文化体験を提供する「時代屋」の車夫・加藤隼人さん(34)は、雷門近くの専用レーンに人力車を止めた。

 通り過ぎる人々の中に観光客らしい姿を見かけると、パンフレットを手に「人力車いかがですか」と声をかけていく。1時間ほど続けたが、乗車してくれる人は現れなかった。この日の客は1組だけ。「大きいスーツケースを持った人がいないでしょう。人出は戻ったけれど、人力車に乗るような、遠くからの観光客がいないんです」と話した。

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 武蔵村山市出身の加藤さんは大学卒業後、自衛隊勤務を経て人力車夫の道に進んだ。浅草の雰囲気が好きで、日本文化へのあこがれから選んだ仕事だった。お客さんのプロポーズに協力したり、手にびっしり漢字を書いて、中国人観光客を案内したり。乗客の喜ぶ姿にやりがいを感じていた。

 そんな仕事が、2020年初頭からの国内での新型コロナウイルスの感染拡大で一変した。多いときには1日に1人あたり10組ほど客を乗せていたのが、全体で1日1~2組まで落ち込み、ゼロの日も出るようになった。乗客の半分を占めていた外国人観光客も姿を消した。

 「会社に行っても仕事がない。今日は走れるかな、と思いながら出社するのは本当につらかった」と振り返る。

 20年夏に始まった政府の観光支援策「Go To トラベル」で一時的に客が戻ってきたが、年明けには2度目の緊急事態宣言が発出された。延長、再宣言の繰り返しを経て宣言はようやく解除されたが、客足はまだ戻らず、休業中のスタッフもいるという。

 「今までの選挙ではそこまで思い入れがありませんでしたが、今回は違います。感染を抑えつつ、経済も回していってもらいたい。1票に気持ちが入っています」と話す。

 人力車夫になって今年で7年目。コロナ禍が始まる直前に、新人への指導を任された。再び浅草に観光客が戻り、自分が育てた車夫が活躍する日を心待ちにしている。諫山卓弥

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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