新型コロナウイルスの感染が拡大する中、風邪などで休んだ従業員に対し、会社がウイルスに感染していないことを証明する書類を求める事例が相次いでいる。PCR検査は原則、医師が必要と判断した場合などに限られ、仮に検査を受けても「陰性」の立証は簡単ではない。本意でない退職につながったケースもあり、厚生労働省は事業者側に要求を控えるよう呼びかけている。
「どうして仕事を奪われるのか、納得がいかない」
関東地方に住む40代の女性はそう憤る。介護施設に常駐し、利用者の健康相談などを担当する看護師だったが、新型コロナ感染の疑いをかけられ、追い出されるような形で退職した。
3月初め、微熱が出て職場を早退した。翌日に受診した病院では「風邪」と診断され、他の病院でも「コロナの疑いはない」と診断された。せきや、味覚・嗅覚(きゅうかく)の異常もなかった。
微熱が続いたので施設に報告すると、「給与の6割を支払うから3月中は休んで」と指示された。
女性は息子2人を育てるシングルマザー。「生活が立ちゆかなくなる」と困り、医療機関に相談した。4月初め、新型コロナの症状はなかったが特別にPCR検査を受けさせてもらうと、結果は陰性だった。
施設に伝えると、今度は「陰性証明書」を出すよう指示された。だが、検査を受けた医療機関は証明書を発行していなかった。
女性は仕方なく、医療機関から施設に直接「症状がコロナではなく、検査も陰性なので、働いても問題ない」と説明してもらった。
4月上旬に勤務を再開したが、約1週間後に上司に呼び出された。4月30日付での退職を勧告する「退職勧奨通知書」を手渡され、「感染が疑わしい人とは働けない」と告げられた。
同僚らの署名も見せられ、「他のスタッフも同じように言っている」と伝えられた。女性はその日のうちに荷物をまとめて帰宅するよう指示され、そのまま退職した。転職活動中は、「感染が原因で辞めさせられたと誤解している人がいたら」との不安がよぎり、履歴書を書く手が何度も止まったという。5月末にやっと再就職が決まった。
「高齢者と接する職業だから私自身も特に気をつけていたし、施設側が事業所を守りたい気持ちもわかる。だけど、こんな簡単に人を切っていいんですか。こんな目に遭うなら、看護師になんてならなきゃよかった」と女性は涙ぐんだ。(遠藤美波)
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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