ハサミとドライヤーを操り、色鮮やかで立体的な髪形を作り上げる。美容師が腕を競う「第47回全日本美容技術選手権大会」の「カット&ブロー競技」で、野中樹里さん(32)=福岡県田川市=が7度目の挑戦で初優勝を果たした。ミリ単位のずれが仕上がりを左右する奥深い世界。「先人が築いてきた美容師の文化。私もその一部になりたい」。そんな思いで日々研さんを積む。
昨年10月、神戸市で開かれた同大会。完成形をイメージして前もって染めたウィッグ(かつら)をカットし、ドライヤーやくしで立ち上げていく競技は、デザイン力や、毛先までの流れの美しさがポイントだ。
紫、黄色、黒…。制限時間の40分内に仕上げた作品は、放射線状に髪の色が徐々に変化しつつも、色の境がくっきり。計算し尽くした自信作は、「とんでもない作品がある」と審査員をうならせた。
美容師の母が勤めていたサロンが幼少期の遊び場だった。巻き髪にするためのロットを渡したり、タオルを洗ったりするうちに、自然と将来の夢は美容師に。いつもサロンにいたからか、今でもパーマ液のにおいが心地よく、ドライヤーの音を聞けば、ついうとうとしてしまう。
高3の夏から通信学校で美容師資格の勉強をしつつ、高校卒業後に福岡市のサロンに勤めた。飯塚市の美容室に移り、福岡県美容生活衛生同業組合が開く勉強会に参加。10年前に県予選に初出場した。
初出場から2年後、県大会を制して初挑戦した全国大会は力を発揮できなかったが、翌年は入賞。組合の講師らの指導を仰ぎながら猛練習を続け、17年の全国大会では2位に。次は日本一と意気込んだ18年は、入賞に終わってしまった。
優勝しかないという重圧に空回りした。「心が乱れたら良い作品ができない。あの挫折も必要な経験だった」と今は思う。
実は昨年の全国大会前、それまでの実績を踏まえ、関係者から内々に世界大会出場の打診があった。だが、こう返した。「全国で優勝したら出場します」。その言葉通りに優勝。表彰台の頂点に立ちながら、今年の9月にパリで開かれる世界大会に出場する自分の姿を思い描いていた。
現在は、叔母が経営する田川市の美容室「ヘアー・スペース 宙」に所属。暇さえあれば世界大会に向けて練習する。世界大会用のウィッグは1個約2万円と高額なため、経済的な負担もかかるが、「練習しないと、当日失敗する夢を見ちゃう」と笑う。
もちろん、積み重ねた練習はサロンワークに生きている。基本に忠実な手早いカットが持ち味。流行色に敏感になり、百貨店で観察した自分なりのカラーを客に提案する。
美容学校の特別講師として、後進の育成にも力を入れる。そして、いつか自分の店を構えるのが目標だ。「とにかく美容師って楽しい。学んだことを次の世代に引き継いで、美容師として人生を終えられたら幸せ」 (前田倫之)
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Source : 国内 – Yahoo!ニュース