元文部科学事務次官の前川喜平さんが2019年3月、栃木県大田原市で講演した。「これからの日本、これからの教育」と題し、演壇に立った。
主催の実行委員会は周辺の自治体や教育委員会に名義後援を申請した。だが、すべて不承認となった。「(他の講演会で)現政権に批判的な発言が見受けられた」(大田原市や那須塩原市)、「政治的な発言をされると後援できない」(那須町)などが理由だった。
前川さんは17年、国家戦略特区を使った獣医学部新設問題で「告発」した。「加計学園が官邸の意向で優遇されたことをうかがわせる文科省の文書が存在した」と認めた。「行政がゆがめられた」と政権批判を繰り返した。
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実行委員長の田代真人さんは「時の人だった前川さんの話を聴きたいと、2年前から計画した」。今も後援申請が不承認だったことを疑問に思っている。
「広く参加を呼びかけ議論しようと後援申請した。何事も賛否両論があるのは当然。一方の意見だけしか採用しないんだったら民主的な議論は成り立たない」
前川さんも「政権を応援する人なら後援したのでしょうか」。
そして、名古屋市での国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」への補助金交付問題や、発足直後の菅政権が日本学術会議会員6人の任命を拒否した問題との共通点を挙げ、前川さんは「表現の自由」が侵されたと指摘する。
「権力側が公平・中立性を持ち出すのは、批判を封じ込めたいから。そもそも政治権力に迎合するような表現・言論は制限する必要がありません。権力への批判が認められてこそ、表現や言論の自由があると言えるのですよ」
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大田原市での開催前後、広島県や山口県などで催された前川さんの講演会でも、地元教委が政治的中立性を理由に後援申請を断っている。前川さんは「政権に逆らっちゃいけないという雰囲気や萎縮効果が日本中に蔓延(まんえん)している」。
「名義後援」の制度自体に問題があり、廃止した方がいいとの意見もある。白鷗大学の清水潤・准教授(憲法)は指摘する。
「特定の表現や集会について、公権力が後援するか、しないかによって是非の判断を示すことは、思想と表現の自由を脅かす。後援制度を維持するのであれば、あらゆる申請に対して、形式的に名義後援をするのが望ましいが、その場合には差別や偏見を含む表現への後援も拒否してはならないことになる」
18年4月、北九州市であった前川さんの講演会。司会をした市議が嫌がらせを受け、脅迫状が送りつけられた。大田原市の会場周辺にも右翼を称する団体が集まり、拡声機で大声を発した。講演会の約1週間前には、田代さんの自宅に匿名男性から電話が入り、「日本から出て行け」と怒鳴りつけられた。
前川さんは思う。
「異論排除の動きが草の根に浸透している。萎縮する人がたくさん出てくると本当に危ない」
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《憲法21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。》
憲法は社会や暮らしに生かされているでしょうか。改憲より先に「壊憲」が進んでいないでしょうか。身近な現場で考えました。記事の後半では、菅義偉首相の政策理念「自助・共助・公助」を取り上げた大学の講義などを通じ、憲法を考えます。
「自助・共助」強いる国 憲法と国家は誰のために
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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