核兵器の使用や開発、実験などを禁止する核兵器禁止条約の発効から22日で1年を迎えた。広島市中区の原爆ドーム前では、市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」が「核兵器禁止条約に全世界の参加を」と訴える横断幕を掲げ、日本政府の署名・批准などを求める声明を発表した。
新型コロナウイルス感染拡大のため、人数を制限し、スタッフ約10人のみが参加した。代表の足立修一弁護士(63)は「条約ができたのは、(核兵器が)非人道的なものであることが世界の人に理解されたからだと思う。最も被害を知る日本が世界に向けて発信しなければ、核兵器廃絶はできない」と述べた。
禁止条約は2017年7月に国連で採択。20年10月に批准国・地域が要件の50に達し、昨年1月22日に発効した。条約の批准国・地域は現在59。核保有国やその「核の傘」にある日本などは入っていない。被爆地・広島選出の岸田文雄首相は「『出口』だが重要な条約」とするが、条約参加に否定的だ。3月にはオーストリア・ウィーンで第1回締約国会議が開かれる。被爆者らは日本政府のオブザーバー参加を求めるが、政府は慎重な姿勢をとっている。(岡田将平)
「腫れ物に触るよう」 被爆者ら、日米声明に違和感
被爆地の広島、長崎両市などでは22日、核禁条約発効1年を記念した行事があった。被爆者らからは、日米両政府が21日に出した核問題に関する共同声明への違和感を訴える声が上がった。政治指導者や若者らに被爆地訪問を呼びかける一方、核禁条約には一切言及しなかったためだ。
「腫れ物に触るような感じがした」。広島県原爆被害者団体協議会の箕牧(みまき)智之理事長(79)は共同声明が条約に触れなかったことについてこう表現した。
箕牧さんは、今年3月にオーストリア・ウィーンで開かれる核禁条約の最初の締約国会議に、日本がオブザーバー参加するよう求める手紙を地元・広島選出の岸田文雄首相に送った。岸田氏がめざす核保有国と非核保有国の橋渡しをするうえで、「避けては通れない問題だ」と訴える。
一方で、声明が政治指導者らの被爆地訪問を呼びかけたことについて箕牧さんは「被爆の実相を知っていただくため、広島に来てほしい」と歓迎した。
「具体的な行動を期待」広島市長
松井一実・広島市長は21日、共同声明へのコメントを発表した。延期になった核不拡散条約(NPT)再検討会議に向け、「意義ある成果を出すという強い決意を表すものであり、大変意義深いものと受け止めている」と評価した。
松井市長は声明が被爆地訪問を呼びかけたことについては「政治指導者が、被爆の実相に触れ、被爆者の体験や平和への思いを共有することで、核兵器は絶対悪であるとの思いを抱くことにより、核兵器廃絶に向けた意思を固め、核兵器のない世界の実現に向けた具体的な行動を起こすことを期待する」とした。
長崎では平和公園に150人
長崎市の平和公園では被爆者ら約150人が集まった。長崎原爆被災者協議会の田中重光会長は「世界で初めて核兵器を違法と示し、多くの国が批准する核禁条約を(日米は)無視し続けている。政府に圧力をかけていけるよう、国民に条約を広く知らせていきたい」と取材に話した。
長崎県被爆者手帳友の会の朝長万左男会長は「被爆地訪問を呼びかけたことは進歩だ。遅々として進まない核廃絶が動くことを期待したい」と述べた。そのうえで「訪問を実現するには日本の外交努力が必要」と注文した。
「オブザーバー参加、状況は完全に整った」ICAN・川崎さん
国際NGO・核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の国際運営委員を務める川崎哲さんは核禁条約への言及がない点については、「(条約に反対している)米国の状況を見ると予想通り。ただ、条約を強く批判している北大西洋条約機構(NATO)に比べると、『良い反応もないが、悪い反応もしていない』という見方もできる」と指摘した。さらに「岸田首相が重視する米国との信頼関係は(21日のオンライン)首脳会談で構築できたと思う。首相が締約国会議へのオブザーバー参加を決断できる状況は完全に整ったといえる」と話した。
川崎さんは声明が、「核兵器の使用の壊滅的で非人道的な結末」と明記したことや、過去のNPT再検討会議で合意した最終文書の重要性に言及したこと、政治指導者に被爆地訪問を呼びかけたことなどは「一定の評価ができる」としつつ、バイデン政権内で議論されているとされる核兵器の役割の縮小や「核の先制不使用」宣言は触れられていない点については、「注目度の高い重要な論点であり、不十分だ」と話した。(岡田将平、福冨旅史、石倉徹也)
核兵器禁止条約
核兵器禁止条約 米ロ英仏中の5カ国に核兵器保有を認めている核不拡散条約(NPT)と異なり、国際法として初めて、核兵器の開発、実験、生産、保有、使用などを全面的に禁じた。国連加盟の6割にあたる122カ国・地域の賛成で2017年7月に採択された。20年10月に批准国・地域が要件の50に達し、21年1月22日に発効した。現在の批准国・地域は59。今年3月にオーストリア・ウィーンで最初の締約国会議が開かれる。締約国以外ではドイツなどがオブザーバー参加する方針だが、日本政府は慎重な姿勢だ。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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