第1章「王道楽土」の裏側で インタビュー編
かつて中国東北部を大陸進出の足場とした日本。そこで人々はどのような暮らしのもと、戦禍に巻き込まれたのか。長編「虹色のトロツキー」で、1939年のノモンハン事件当時の満州国を描き、1918年に始まったシベリア出兵をテーマにした「乾(いぬい)と巽(たつみ) ザバイカル戦記」を現在連載中の漫画家、安彦良和さんに聞いた。
――満州国やシベリア出兵など、近現代の日本と東アジアを扱った作品を多く手がけてこられました。
戦後生まれの私は、学校で親たちの世代が犯した「過ち」を教わりました。しかし、どこからが間違いで、どこまでは良かったのか。そこが分からないと、教訓を得たとは言えないのではないかという思いが強まるばかりでした。自分なりに探ってみようと思ったのが出発点です。
その時代の主人公に視点を据えて描いていくと、誤解を恐れず言えば、「満州国」という存在も、ある意味「あり得た」という感覚になってきます。1990年に「虹色のトロツキー」の連載を始める際、満州の建国大学(建大)の元学生の方々に話を聞きました。一高・東大にも入れた優秀な若者が、あえて建大を選んだ。「学費がタダだったから」という人もいましたが、新天地への期待感や一肌脱ごうという気概は当然あったはずです。荒唐無稽な話に賢明な人は運命を託しません。当時の人々が感じていたことをきちんとくみ取ることが、歴史を読み解くうえで必要です。
――連載中の「乾と巽」は、北海道の開拓村出身の兵士とウラジオストクの日本語新聞の記者が主人公です。「ガンダム」のアムロ・レイは、宇宙植民地に暮らす日系とされる赤毛の少年でした。周縁的な人物を主人公に選んできたのはどんな理由でしょうか。
インタビューの後半では、安彦さんが日本人に決定的に欠けていた姿勢について考えを話します。満州事変から汲み取るべき教訓にも触れます。
主流や中心から距離を置いた…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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