「最強の捜査機関」復権なるか 17年ぶり政界汚職摘発 “敏腕部長”に情報集中 政治家側に緩みも(産経新聞)

 長らく本格的な政界捜査から遠ざかっていた東京地検特捜部が、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業をめぐる汚職事件で約10年ぶりに現職国会議員の逮捕に踏み切った。権力腐敗の象徴ともいえる収賄容疑での逮捕は実に約17年ぶりだ。「最強の捜査機関」と呼ばれながら、検察不祥事で信頼が地に堕(お)ち、一時は「不要論」まで出た特捜部。いま真価が問われている。(大竹直樹)

 ■「牙研いでいた」

 「運動しなければ筋肉が落ちるのと同じで、国会議員を対象とした事件をやらないでいると必然的に捜査能力が落ちる。今回の事件は次の独自捜査にもつながるだろう」。元特捜部長の宗像紀夫弁護士は、久々の政界捜査をこう評する。

 特捜部は25日、IR事業をめぐり、中国企業から300万円を受領するなどしたとしてIR担当副大臣だった衆院議員の秋元司容疑者(48)を逮捕した。

 元特捜検事の高井康行弁護士も「国の重要政策に関わった中心人物が、海外企業に汚染されていた疑いが発覚した。社会的にも意義がある事件。牙を失ったのではないかと思われていた特捜部が牙をしっかり研いでいたことを政界関係者にも示せた」と評価する。

 ■地に落ちた信頼

 特捜部はこれまで時の権力にたびたび切り込み、「首相の犯罪」を暴いたロッキード事件(昭和51年)や戦後最大級の汚職といわれたリクルート事件(平成元年)などで数多くの国会議員を摘発。「最強の捜査機関」と呼ばれた。

 直近の政界捜査は22年当時に政権与党、民主党の幹事長だった小沢一郎氏の資金管理団体「陸山会」をめぐる政治資金規正法違反事件。特捜部は陸山会が購入した土地の原資4億円にゼネコンからの資金が含まれ、これを隠すために政治資金収支報告書に虚偽記載したとみて小沢氏の立件を目指したが、最高検などの反対で断念。秘書だった石川知裕衆院議員(当時)らの逮捕にとどまった。

 実力者だった小沢氏への捜査不発に追い打ちをかけたのが、同年に発覚した大阪地検特捜部検事による証拠改竄(かいざん)事件。検事が描いたストーリーに沿って証拠をゆがめるという前代未聞の不祥事で「特捜部不要論」まで浮上した。不祥事を受けた検察改革の一環で、特捜部自ら事件を掘り起こす独自捜査専門の「特殊直告班」は2班から1班とされるなど態勢が縮小された結果、大型事件の摘発から遠ざかった。

 ■「絶大な信頼感」

 転機は29年9月、敏腕検事で「事件積極派」として知られる森本宏氏(52)の特捜部長就任だった。就任時に「国民が不公正や不公平と思うような事件、水面下に隠れて見えない事件を見つけ出し、刑事責任を問う」と意気込みを語った森本氏は、スーパーゼネコン4社によるリニア中央新幹線建設談合や文部科学省幹部の汚職などを次々と手がけた。日産自動車のカルロス・ゴーン会長(当時)の逮捕は世界中に大きな衝撃を与えた。

 そして今回の現職国会議員の逮捕。背景に何があるのか。宗像弁護士は「森本氏はリーダーシップがあり、上から『果敢にやれ』と言えば、部下の特捜検事の士気も上がる」と話す。

 森本氏の下で捜査経験のある元検事は「国税当局や証券取引等監視委員会など関係機関に『森本氏なら必ず事件にしてくれる』という絶大な信頼感がある。例えば国税が調査に入った際、脱税事件にならなくても不審な金の動きなどを森本氏に伝えると、それが別の端緒になる」と明かす。

 森本氏の在任は3年目に入った。近年は1年程度での交代が多い特捜部長の中では異例の長期となっているが、高井弁護士は「能力の高い特捜部長の在任期間が長いことも大型事件の摘発につながった要因の一つ」と分析する。

 一方、政官財界の不正の監視役を担ってきた特捜部が長年低迷していたことで、捜査対象となる側の“緩み”を指摘する見方もある。今回の事件では現金の授受は衆院議員会館にある秋元容疑者の事務所で行われた疑いが持たれている。宗像弁護士は「長い間、国会議員を逮捕していなかったからなのか、大胆であまりに無警戒」と指摘する。

 特捜部は、描いたストーリーに沿って供述を引き出そうとする強引な取り調べが批判され、独自捜査の取り調べも録音・録画の対象となった一方、新たな武器として司法取引も導入されるなど捜査を取り巻く環境は大きく変化している。宗像弁護士は「今後も司法取引などを活用して端緒をつかみ、もっと深い所に切り込む捜査をするべきだ」と話している。

Source : 国内 – Yahoo!ニュース

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