広島への原爆投下後に降った「黒い雨」で、国が援護対象としていた「大雨地域」以外の人も被爆者と認めた14日の広島高裁の判決要旨は次の通り。
【原告全員を被爆者と認めた一審判決について、国などが「十分な科学的知見に基づいていない」などと主張したことについて】
被爆者を定義する被爆者援護法1条のうち3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」は、言い換えれば、「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができない事情の下に置かれていた者」と解される。
この条文は、旧原爆医療法(1957年制定)から引き継いだものだ。この法律は原爆の被害が他の戦争被害と異なるという人道上の見地から、政治的な観点で制定された法律であり、科学的知見のみによって立つものでなかったことは明らかである。
科学的知見が重要であることを否定するものではないが、被爆者に該当するか否かの判断にあたっては、原爆の放射能により、健康被害が生ずることを否定できるか否かという観点から知見を用いるべきである。
該当すると認められるためには、特定の放射線の曝露(ばくろ)態様の下にあったこと、その態様が原爆の放射能による健康被害が生ずることを否定できないものであったことを立証することで足りる。
「黒い雨」に放射性降下物が含まれていた可能性があったことから、雨に直接打たれた者は無論のこと、たとえ打たれていなくても、空気中に滞留する放射性微粒子を吸引したり、地上に到達した放射性微粒子が入った水を飲んだり、放射性微粒子が付いた野菜を摂取したりすることで、内部被曝(ひばく)による健康被害を受ける可能性があったこと(ただし、被曝線量を推定することは非常に困難である)が認められる。そうすると、広島の原爆投下後に「黒い雨」に遭った者は、被爆者に該当する。
【「黒い雨」の範囲】
国などは、1時間以上雨が降り続いたとされる「大雨地域」内を援護対象とする特例措置が設けられたことをもって、区域外の者は該当しないことが当然の前提となっていたかのような主張もする。しかし論理的には、本来被爆者健康手帳を交付すべき者であったにもかかわらず、あえて交付せず特例措置とした疑いが強いといわざるをえない。
(大雨が降ったとされる)「宇田雨域」の範囲外であるからといって、「黒い雨」が降らなかったとするのは相当ではない。(宇田雨域より広い範囲に雨が降ったと主張している)「増田雨域」と「大瀧雨域」にも、「黒い雨」が降った蓋然(がいぜん)性があるというべきである。
個別に検討すると、原告はいずれも雨が降る間のいずれかの時点で降雨域にいたと認められるから、「黒い雨」に遭ったといえ、被爆者健康手帳の交付を義務づけるのが相当である。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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