10万年にも及ぶと言われる「核のごみ」(原発から出る高レベル放射性廃棄物)の最終処分の問題が、人口2800人の北海道寿都町で持ち上がって1年2カ月。処分場選定に向けた全国初の文献調査が進むなか、町民の意思を初めて問う町長選が21日告示された。町民はどんな選択をするのか。結果しだいでは、国の原子力政策にも影響を与えることになる。(伊沢健司、佐野楓、鈴木剛志)
立候補したのは、文献調査の中止を掲げる前町議で新顔の越前谷由樹氏(70)と、調査推進で6選をめざす現職の片岡春雄氏(72)。4回連続無投票だった町長選が選挙戦となるのは20年ぶり。26日に投開票される。
越前谷氏は、片岡氏が文献調査への応募検討を表明した昨年8月から一貫して反対してきた。水産加工業者らでつくる反対派の町民の会などの後押しを受け、町議を辞職し立候補した。
21日午前、支援者や反対派の町議を前に「核のごみを受け入れない、町民が主役のまちづくりをスローガンに、町政を私たち町民の手に取り戻しましょう」と呼びかけた。
21日午前の片岡氏の出陣式には、賛成派の町議、町商工会長、地元選出の自民党の道議らが出席した。あいさつに立った支援者は町営の診療所の運営や、風力発電の売電収入などを片岡氏の実績として挙げた。
片岡氏は、核のごみをめぐる問題について「1、2年では解決できない。一緒に、これから落ち着いて勉強したい」と、文献調査の継続を訴えた。
両氏の「第一声」の聴衆の中には、今年3月に町内に現地事務所を置いた原子力発電環境整備機構(NUMO)の職員の姿もあった。
漁師たちの声は
町民は賛成派と反対派に割れている。立場が異なる漁師2人に思いを聞いた。
「このままでは寿都はだめになる」。50代男性は言う。「20年間で町は片岡さんのワンマン体制になってしまった。その頂点が文献調査の受け入れを独断で決めたことだ」
「昔と変わらない寿都を子孫に残したい。核のごみの施設がある町を子孫はどう思うんだろう」
核のごみの問題は漁業にも影を落とす。「寿都の魚は買いません、と言ってきた人もいる」。片岡氏を推す漁師仲間と言葉を交わしただけで、双方の支持者から疑いの目を向けられることもある。「この分断は越前谷さんが勝つことでしか解消されない」
一方、20代男性は「周りの同世代では賛成が多いですね」と話す。
妻の出産を機に、町の子育て支援策が手厚いことを知った。「長く町づくりをしてきた片岡さんのおかげ。信頼している」
片岡氏は概要調査の前の住民投票で町民の意思を確かめると強調し、「まずは勉強を」と文献調査の必要性を主張する。男性も、文献調査の後に町民の意思を示せばいいと考えている。「僕は文献調査の20億円の交付金をもらえる段階まででいいと思う。寿都には20億円で十分でしょう。町民の不安を消すためにはそこで終わりでいい」
越前谷由樹氏(無新)の第一声
核のごみは大事な争点だ。寿都は町民間の分断が大きい。町民の不安や苦しみを解消するためには文献調査を撤回するしかない。核のごみに翻弄(ほんろう)されない元気な寿都を回復させる。これはお金には代えがたい。
調査応募に先駆けて住民投票を行うべきだった。町民をおいてけぼりにしたやり方であり、民主主義の基本をなしていない。町民の信任、判断を仰ぐのが地方自治の本来の姿だ。
町の予算は大きく膨れあがっている。財政悪化を理由に核のごみの交付金を受け取るのはおかしい。身の丈に合った予算を心がけ、財政改革を行う。
町の基幹産業である漁業に重点を置き、町役場に水産課を設ける。漁業で将来の経営に夢を抱ける体制づくりが必要だ。
核のごみの問題で損なわれた近隣町村との関係を修復し、産業、都市、スポーツ文化の交流を進める。
片岡春雄氏(無現)の第一声
5期20年はあっという間だった。お金がないこの町をどうやって運営していくのか、相当悩んだ。安心した暮らし、産業振興に重点を置くにも資金が必要だ。風力発電はチャンスだった。順調にいったおかげで、私のまちづくりの思いが着々と進んだ。
しかし20年で人口は1200人減った。働く場がないからだ。6期目に向けての一番の仕事は、若い人の働く場所をつくること。サーモン養殖、農業の施設栽培に活路を見いだしたい。
町長選の争点は、核のごみだと一部で言われている。しかし、勉強しないことには判断できない。概要調査に移るときには賛成か反対か判断してもらい、私は町民の思いに従って結論を出す。
議論を全国で展開しないと日本の使用済み核燃料はどうなるのか。「みんなで議論しましょうよ」というのが一石を投じた思いだ。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル