濁った水は、千曲川から数キロ先にある長野市下駒沢の住宅街にも流れ込んだ。ブロック塀は腰の高さまで茶色く染まり、濁流の激しさを物語っていた。救助に使用したのか、住宅街には似合わないゴムボートもある。着の身着のまま家を飛び出した住民らは、呆然(ぼうぜん)としながらわが家を眺めていた。
「死ぬんじゃないかと思った」。会社員の倉島正さん(47)が異変に気付いたのは、午前4時半ごろ。2階で仮眠し始めてから1時間半後のことだった。家の前を通り過ぎるはずの車がなぜかUターンを繰り返していた。「何かおかしい」。濁流が迫っていることを確認すると、小学6年と高校3年の息子を起こし、妻とともに避難先の小学校へ車を飛ばした。
濁流は音を立てずに向かってきた。「とにかく遠くへ行こうとそれだけを考えていた」と振り返る。避難所から昼過ぎに自宅の様子を見に戻ると、「海のような状態。とにかく家の様子を知りたい」。
1階は使用できなくても、2階だけで生活できるか。もう2度と家に戻ることはできないのか。さまざまなことを思いながら、自転車に乗り、1時間に1回のペースで自宅を見に来ている。パソコンを持ち出せばよかったと後悔している。子供の運動会で撮影した写真のデータを保存していたからだ。川からは距離があるため、決壊しても濁流が到達するとは想定していなかった。「甘く考えていたのかもしれない。命だけは、という思いで飛び出すことしかできなかった」とつぶやいた。
無職の大塚敬一郎さん(74)はもう、ボランティアで泥をかき出すなどの活動をしている。家の状態が心配で避難せずにいたが、早朝には床下浸水に気付いたという。濁流は昼過ぎまで増え続けた。「こんなこと当然初めて。これから先、どうなるのだか」と語った。
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Source : 国内 – Yahoo!ニュース