「泣いて笑って育てた宝物なのに」 自死した医師の遺族、病院を批判

 神戸市東灘区の甲南医療センターの医師、高島晨伍(しんご)さん(当時26)が昨年5月に自殺したのは長時間労働による精神疾患が原因として労災認定された問題で、遺族が18日、大阪市内で記者会見を開いた。亡くなるまでの約3カ月間休みがなく、直前1カ月の時間外労働が200時間を超えていたといい、「労災認定を受けても、あの心優しい大事な息子は私たち家族のもとには帰ってきません。センターにとっては医師の代わりはいくらでもいるのでしょうが、家族にとっては泣いて笑って大切に育てた、かけがえのない宝物なのです」と訴えた。遺族はセンターに慰謝料を求める提訴を検討しているという。

 母の淳子さん(60)と兄(31)によると、高島さんは2020年4月に研修医としてセンターで働き始め、22年4月から消化器内科の専門医をめざす「専攻医」として勤務していた。昨年5月17日夕、退勤後に神戸市内の自宅で自殺しているのを、連絡が取れなくなったのを心配した淳子さんが発見した。

 高島さんは、医師である父や兄の背中を追って医師の道へと進んだという。幼い頃から動物や年下の子どもを可愛がる優しい人柄で、最近は音楽を聴いたり、野球を見たりするのが趣味だったという。

 しかし、昨年4月下旬ごろから、多忙で表情が暗くなり、趣味を楽しむ余裕もなくなった。5月に入ると、淳子さんに「楽しいことが一つもない」「しんどい。誰も助けてくれない」ともらすようになったという。

 高島さんは両親あてに、自筆のメモを残していた。メモには感謝の言葉とともに、今後の生活を案じる文言がつづられていたという。

 遺族は昨年9月、西宮労働基準監督署に労災を申請。今年6月に認められた。認定によると、高島さんの死亡直前1カ月の時間外労働は207時間50分で、3カ月平均でも月185時間超に上った。国が定める精神障害の労災認定基準である「発病直前の1カ月におおむね月160時間以上の時間外労働」を大きく上回っていた。

 高島さんの死後、センターは第三者委員会を設置して対応を検証。しかし、センター側は第三者委の報告書を外部へ公表しないことを遺族に要求。遺族が断ったため、現在まで開示していない。淳子さんは「息子の死を軽視している。息子の人生を傷つけたことに向き合い、誠実に対応してほしい」と訴えた。

 センターは17日の記者会見で、第三者委の報告書が認定した高島さんの昨年4月の時間外労働時間(197時間)について、「知識や技能を習得する自己研鑽(けんさん)の時間も含まれており、全てが労働時間ではない」と主張。具英成(ぐえいせい)院長は「過重な労働を課した認識はない」と説明している。

 センター側の説明について、高島さんの兄は18日の会見で、高島さんが死の直前まで学会発表の準備に追われていたことをあげ、「学会発表は自らの意思によるものではない」と反論。「担当患者のカルテ作成だけが業務なはずはなく、3年目の医師にとってほとんど全てが業務だったはずだ」と訴えた。「センターでは同様の働き方が常態化していたのではないか」と疑問を呈した。

 遺族はセンターが違法な残業や休日労働をさせたとして、西宮労基署にセンターの運営法人などを労働基準法違反の疑いで告訴したことも明らかにした。(山本逸生)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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