「浴衣のままで客逃げた」風呂自慢の輪島の宿、再起の矢先に大地震

 最大震度7を観測した能登半島地震。大規模な火災に見舞われた輪島朝市周辺の宿泊施設も、建物が壊れるなど大きな被害を受けている。

 輪島朝市から1.5キロ。日本海を望む海辺に立つ、市内最大級の観光宿泊施設「ホテルこうしゅうえん」(石川県輪島市)も被害を受けた。

 門松が飾られたままのエントランス。ガラスは割れ、ロビーには、はがれ落ちた天井や調度品のつぼが散乱している。客から預かったスーツケースやリュックが台車に載せられたまま残っていた。

 「こんなことばかり。繰り返しですよ」

 同ホテルの営業統括支配人の蔵角(くらかど)信幸さん(68)は防犯のため、地震があった1日からホテルに泊まり込み、留守番をしている。

 元日、ホテルには120人ほどの客が宿泊予定だった。1度目の地震のあと、蔵角さんは従業員に宿泊客の安全の確認を指示し、大浴場の入浴客に避難を呼びかけているところで2度目の揺れに襲われた。

 タイルが落ち、かごが散乱する脱衣所を抜け、浴衣姿のままの客を高台にある駐車場に避難させた。

 ロビーから日本海の潮が引いたのが見えた。

 「津波が来る」

 覚悟したが、陸上に達するような津波は来なかった。

 同市内にある蔵角さんの自宅も、被害を受けた。駐車場は潰れたが、妻は傾いた家の隙間にいたため助かったという。今、妻は避難所に身を寄せ、蔵角さんはホテルのロビーで生活している。

 輪島の観光客数は「年々減少傾向だった」と話す。2015年に輪島が舞台になったNHKの朝ドラを機に持ち直したが、新型コロナウイルスの感染拡大で激減。コロナの「5類」引き下げと入国規制緩和で国内外の観光客が戻り始め、また頑張ろうと思った矢先に震災に襲われた。

 「今回の地震で、能登に行こうという観光客は減るのでは」と嘆く。

 「輪島の観光や従業員のことを考えると、縮小してでも、残した方がいいのでは。行政と民間が同じ意識で取り組まないと、復興は難しいと思います」

 複雑な思いでいる。(関田 航)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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