災害が起きると住民がパニックを起こす――そんな思い込みをまだ引きずっていませんかと、社会心理学者の吉川肇子さんは言う。問題は住民によるパニックではなく、むしろ「エリート・パニック」なのだ、とも。災害時に行政責任者などのエリートは、なぜ、「住民がパニックを起こすのではないか」と恐れるのだろう。そして、エリート・パニックによる弊害を防ぐにはどうすればいいのか。吉川さんに聞いた。
――災害時には住民はパニックを起こすものだ、という人々の認識に警鐘を鳴らしておられますね。
「ええ。災害時には住民がパニックを起こすと信じている人は少なくありません。しかし災害で住民がパニックを起こすという説は、心理学や社会学の研究でこれまで繰り返し否定されてきています」
――試しに「パニック」という言葉を辞書で引いたら、災害などに遭ったとき起こる群衆の混乱、といった説明がなされていました。
「そうした説は、日本を含めて世界的に歴史を検証したうえで否定されているのですが、それでも信じる人々がいなくならないため、『パニック神話』という言葉もあるほどです。パニック映画によって描かれた幻想が広がっているのだという説明もあります」
――確かに私の意識の中にも、危機に住民がパニックを起こすというイメージは刷り込まれています。
「現実に災害で重要なのは、むしろ、危機的な状況に直面しているにもかかわらず住民が『大変な事態ではない』と認識してしまう問題です。通常時と同じだと考えてしまう傾向があり、被害拡大につながりかねないので、『大変な事態だ』と認識することこそが実際の課題なのです」
――では、災害とパニックの関係に注意を払う必要はないのでしょうか。
「答えはノーです。災害時に…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル