「無我夢中で」男が持つ物払い落とした 容疑者取り押さえた地元漁師

 衆院補選の応援演説に訪れた岸田文雄首相の近くに爆発物が投げ入れられた威力業務妨害事件で、現行犯逮捕された木村隆二容疑者(24)を取り押さえた地元漁師の男性(54)が16日、報道陣の取材に応じた。爆発物が投げられた直後、「無我夢中で」容疑者を押さえ込んだ一部始終を語った。

 男性は15日午前8時ごろ、和歌山市の雑賀崎(さいかざき)漁港に設けられた演説会場に入った。岸田首相が応援演説に訪れる約3時間前だ。

 「あんなえらいことは、もう起こらんやろな」

 漁師仲間とそんな話をした。昨年7月に起きた安倍晋三元首相の襲撃事件のことだ。雑賀崎で生まれて50年以上。地元で現役の首相を見た経験はなかった。

 午前10時半ごろから支援者らが集まり始め、聴衆は約200人に膨らんだ。

 「首相の話を聞けるんだと、みんな楽しみにしていた」

 午前11時過ぎ、首相が会場に入り、地元の海産物を試食。演台のそばに歩いて移動し、演説の開始を待っている時だった。

 聴衆の中で、男性の左前方に立っていた男が岸田首相の方へ向けて「黒っぽいもの」を投げた。男はさらに、腰の辺りで何かを持って手を動かしていた。最悪の事態が、男性の頭をよぎった。

 とっさに体が動き、気づけば男の頭を腕で押さえ込んでいた。手に持っていた物を離さなかったので、男性が払い落とした。それが何なのかは分からなかった。男は無抵抗で言葉も発しなかった。警察官や漁師仲間が後に続き、男を取り押さえた。

 警察官らに男を引き渡した直後、背後で爆発音が鳴った。

 「もし近くで爆発していたら、自分も命が危なかったかも知れない。けが人がいなくて本当に良かった」と男性は振り返る。

 事件当日の午後5時ごろ、警察署で当時の状況を聞かれていた男性の携帯電話に、岸田首相本人から電話があった。「今日のことは本当にありがとうございます」。そう言葉をかけられたという。

 漁港では16日も現場検証が続き、男性は漁を再開できていない。男性は「本当にこんなことが起きるとは思わず、ショックが大きい。(容疑者は)まだ若いのに、なぜこんなことをしたのか」と語った。(丘文奈、華野優気)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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