コロナ禍の教育施策をめぐり、批判的な提言書を松井一郎大阪市長らに送って文書訓告を受けた元市立小学校長の久保敬さん(61)が21日、訓告は不当だとして大阪弁護士会に人権侵害救済を申し立てた。市教委は訓告を「妥当」とするが、教育行政の専門家からは、教育現場への悪影響を案じる声もあがっている。
申立書では「処分を受けた校長として社会に公表されたままで、傷つけられた人格を回復するために取り消しを求める」とし、「独自の意見を述べたという理由で処分を受けるのであれば、私個人の問題ではなく、すべての人に関わる人権侵害」だと主張した。
黙っていたら「息苦しい教育現場に」
申し立て後に市役所で会見した久保さんは「仕事をする中で感じたことを言うのは当たり前だと示さないと、ますます息苦しい教育現場になる」と訴えた。
久保さんは市立木川南小校長だった2021年5月、緊急事態宣言中の小中学校についてオンライン学習を基本とした市の判断を批判する提言を、松井市長と山本晋次教育長(当時)に郵送。通信環境の整備が不十分で現場は混乱を極めたと指摘し、「子どもの安全・安心も学ぶ権利も保障されない状況を作り出している」と改善を求めた。
市教委はこれに対して同年8月、「他校の状況等を斟酌(しんしゃく)することなく、独自の意見に基づき(混乱を極めたと)断じた」などとして地方公務員法上の信用失墜行為にあたると判断。久保さんを文書訓告にした。
救済申し立てを受けた弁護士会は調査し、人権侵害を認定すれば「警告」「勧告」などを出して是正を求めるが、法的拘束力はない。市教委の担当者は申し立てについて「文書訓告が妥当と判断した。取り消しの考えはない」と話した。
大阪公立大の辻野けんま准教授(教育経営学)は、申し立てに添えて提出した意見書で「意見を表明した校長が訓告に処されたことは著しく正当性を欠き、このことこそが教育行政への信頼を失墜させているのでは」とした。
「子どもの将来も社会の将来も心配」
教育行政の専門家は文書訓告をどう見ているか。
久保さんは当時、オンライン学習をめぐって市教委の担当者ともやりとりし、市の窓口にも実名で意見を寄せたが、状況が変わらないために提言書を出したという。愛知県犬山市の教育委員も務めた日本教育政策学会長の中嶋哲彦・名古屋大名誉教授は「保護者や市民から見れば、学校の実態を校長の提言書で知らされた。信用失墜行為でなく、むしろ公務員として住民サービスに努めたと言えるのではないか」という。「今回の訓告は、聞いたことがない対応だ。『もの言えば唇寒し』となれば、教員からの声が上がりにくくなる。それを見て育つ子どもたちの将来も、社会の将来も心配だ」と話した。(宮崎亮)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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