「現職警察官の衝撃的事件。社会的影響は軽視できない」―。福岡県小郡市の妻子3人殺害事件で、福岡地裁の裁判員裁判は13日、元福岡県警巡査部長の中田充被告(41)に死刑を言い渡した。直接証拠がなく、間接証拠の積み重ねを吟味し、犯人は被告以外にあり得ないと導いた。無罪主張を退けられ、極刑を告げられてもほぼ表情を変えなかった中田被告に、遺族は厳しい視線を向けた。安全安心を守る立場の元同僚の死刑判決に、福岡県警では「最悪」と衝撃が走った。
「事案に鑑み、理由を先に説明します」|。午後2時半、地裁912号法廷。柴田寿宏裁判長は静かに判決理由を語り始めた。中田被告は、弁護士席の前に腰掛けて両手の拳を握りしめ、理由を聞き入った。
「捜査を見直して犯人を捕まえてほしい」などと一貫して無罪を主張してきた中田被告。判決では「事実に反する虚偽の供述」などと断罪され、ことごとく退けられた。
柴田裁判長が子2人について「無限の可能性のある未来を突然閉ざされた」と指摘すると、真一文字に結んだ口元が一瞬震えた。
中田被告は15年間福岡県警で働き、事件当日も所属する通信指令課で普段通り勤務した。「問題なかった」(県警)という警察官の事件は関心が高く、この日は一般傍聴券23席を求め476人が列をなした。
福岡市博多区の県警本部。午後3時すぎ、ネットニュースで「死刑判決」が速報されると、ある幹部のスマートフォンが振動した。速報を見た幹部は「背筋が凍った」。捜査に関わった別の幹部は「徹底的に捜査したので、適切な判断」と受け止めたが、「組織としては最大の不祥事」と頭を抱えた。
母子3人を手にかけたことが認定されたため、ある捜査関係者は「死刑は当然。でも、県警の悪い印象は今後も持たれ続ける」と憤った。「死刑なんて聞いたことがない。われわれはいい仕事を重ねていくしかない」。別の捜査関係者は自らに言い聞かせた。
被告とかつて同じ職場だった幹部は「口数は少なくて静かなやつ」と振り返る。死刑判決を受け「もうコメントのしようがない…」。複雑な胸中を吐露した。
県警は、中田被告が逮捕された後、警務部長が2回記者会見して謝罪した。だが、この日は会見を開かず、「判決については、コメントを差し控えたい。今後とも職員の指導教養に努めていく」(棟杉邦哉首席監察官)とのコメントを発表しただけだった。
被害者参加制度を利用し、裁判を傍聴してきた妻由紀子さん=当時(38)=の母親と姉、妹は法廷で判決に耳を傾けた。
「死刑に処する」。柴田裁判長が告げた瞬間、傍聴席の母親はうつむき、数秒間眼を閉じた。姉と妹は表情を崩さないまま、目線を中田被告に向けた。
「判決は、私たちの意見と異なることはありません。しかし、殺された理由や、詳しい事実は結局分からないままとなり、この点には到底納得がいきません」。閉廷後、遺族はコメントを出した。(木村知寛、古川大二、西村百合恵)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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