「生きていてよかったじゃないか」 ときどき自分に語りかける

ノンフィクション作家・井口隆史さん

 つらいことが重なって、「いっそ死んでしまいたい」とか、「死んだほうがましだ」とか思うのは、よくあることだろう。だが、身動きがとれず、自死の方法もないというのが、ALSの行き着く先だ。

 舌を嚙(か)み切って死ぬという話があるが、あれは眉つばものである。私はこの病気のせいかどうかは分からないが、近ごろ誤って、よく舌をかむことが多い。死ぬかと思うほどの痛さだ。でも、切れて腫れることはあっても、ほとんど出血はない。舌を嚙み切る苦痛をこらえられる人なら、生きるためのどんな苦痛にも耐えられるはずである。

 自死の選択肢がないとなれば、私などはかえって邪念がなくなる。どうあっても、生きるしかないからだ。生きていて申し訳ない、と思う場面に遭遇したって、生きるしか方法がない。

 2020年7月、SNSで「…

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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