簡素な形態と明快な色彩による「モリカズ様式」で知られ、独自の画風や生活から超然としたイメージで語られる熊谷守一(1880~1977)。そんな「画壇の仙人」の素顔は、兵庫・伊丹市立美術館の「熊谷守一展 わたしはわたし」を見る限り、意外にしたたか、かもしれない。
拡大する「かまきりと彼岸花」1958年、油彩・板=婦人之友社
20歳で入学した東京美術学校で洋画の重鎮・黒田清輝らに学び、光や闇、色の扱いに試行錯誤しながら画法を変遷させた守一。50代半ばで使い始めた独特の輪郭線は、同時期に制作することが増えた日本画の様式を取り入れたと考えられている。
守一の線は簡素にして雄弁だ。例えば、便所の窓からいつも見ていた隣人の後ろ姿を描いたとされる「老農夫」。体の直線的な輪郭線は、しなやかなS字を描く木材との対比で逆説的に固く筋張った背中や手足の質感を強調し、老人の性格や歩んできた人生まで想像させる。地面と水平な柱に寝そべって眠る「牝(めす)猫」では、緩みきって垂れ下がるあごや腹の肉の柔らかさと重みを、3本の直線で描かれた柱が絶妙なバランスで支えている様子が伝わってくる。
拡大する公式図録「熊谷守一 わたしはわたし」。表紙には「牝猫」(1959年)が使われている=伊丹市立美術館提供
濃淡のない色の組み合わせで立…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル